101人が本棚に入れています
本棚に追加
「やれやれ、まだ終わらぬのかえ」
しゃがれた声は堀の縁にいる老婆が発したものだ。小鬼と同じくらいの背丈ほどしかない。黒いビロードのローブを身に着け、杖の代わりに真っ赤なルビーをはめた蛇の彫りが施されたコウモリ傘を持っている。老婆の言葉に使い魔は反応することはなく、ひたすら屍を投げ入れる作業に没頭していた。
「こら小鬼! それに触れてはならぬ」
老婆は甲高い声を飛ばした。一匹の小鬼が小型のドラゴンの死骸に触れようとしたからだ。だが遅かった。小鬼は虹色に輝く、薄いクリスタルのような鱗を剥いでしまったからだ。肉片から流れ出た体液に触れると、キっと声をあげながら全身が泡立ち、蒸発するように消えてしまった。
「やれやれ‥‥‥。神にもっとも近いドラゴンの血に触れたのだからだからしかたがない。神は自分で創り出しておきながら我々に始末はさせるとは……。天井におわす全能の神よ、報酬が金品だけではとても足りませぬぞ」
老婆は不満を露わにした。彼女の下僕である別の小鬼は、屍のはだけた乳房にある首飾りをはぎ取った。一見すると人間の女に見える。だが、下半身は竜であった。女の隣で横たわる男の背中には翼が生えている。腰につけた巾着からダイヤがこぼれ落ちると小鬼らは先を争うように群がった。
「まったくもってペルセポネ様のおっしゃる通りですぜ」小鬼の長は言った。「天井の神は、自らが創造した傑作を消すために、冥界よりワシらを呼び寄せ、あの使い魔である死魔を遣わしたのですから」
最初のコメントを投稿しよう!