カナトスの皇子タイガ

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 排水溝の悪臭が鼻をついた。洗濯物が下がり、貧しい居住地区に迷い込んだようだ。三方を高い塔のような建物に阻まれた。 「行き止まりか?」 「皇子!ここで一戦交えます」  酒場の路地よりは広さはマシだった。サー・ブルーは剣の(さや)を投げ捨てるが早いが、五人に向かって斬りかかる。タイガも鞘を抜く。いくらサー・ブルーがカナトス一の剣術使いであっても、さすがに一度に五人が相手では具合が悪い。四人がまとめて一度に斬りかかる。残り一人をタイガが相手をした。  五人の刺客は誰の命令で動いているのかは、おおかたの予想はついていた。タイガには腹違いの兄がいる。王の第一子であるアーサーは王位継承権第一位の皇太子だった。昨年、皇太子妃が皇子を産んだ。このため、赤子王座を強固にするため、必ずやどこかで粛清を行うはずだったからだ。  祖国を離れた今、政敵に絶好の暗殺の機会が訪れている。父王も分かっていて国一番の剣術使いをタイガのお供に付けていた。しかし二人の皇子の存在は国の不安定要素になるのも事実だ。ましてや、タイガは王の求愛を受けた側女が生んだ皇子。父王もこれ以上の庇護を差し控えたのだ。  ぎゃっと悲鳴があがる。一人の刺客の指がサー・ブルーの剣で飛んだ。乱闘騒ぎに近くの教会の鐘が鳴る。住人がバルトニアの憲兵に知らせるために鳴らしたのだ。皇子のしまつに失敗した五人組は、素早く立ち去った。  サー・ブルーは苦々しい表情を浮かべた。一方、タイガは長い息を吐き出し呼吸を整えた。  石畳の上チカチカと微かに光るものがあった。よく見るとサー・ブルーが切った指に指輪がついていた。 「皇子、見てください、黒百合の紋章の入った指輪です!」 「我が国のドラゴンの紋章はなく、黒ユリに忠誠を騎士団の噂は本当だったかーー」  カナトスの紋章は漆黒のドラゴンだった。王を廃そうという秘密結社の噂が流れていた。その者たちはタイガの命も狙う。皇太子側の人間か否かはもう少し状況をみる必要があった。 「この指輪は唯一の物証です」サー・ブルーは剣先で指輪をひっかけて拾い上げた。 「それは違うぞサー・ブルー。指の無い男こそ、確たる証拠。だが、それより今は時間がない。探すはスフィンクスだ」  タイガは元来た道に向かって踵を返した。  
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