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二人はスフィンクスの艶めかしく揺れる尾についてゆく。やがて、天まで聳えるほどの石垣の前で止まった。そこに人の大きさほどの三重の円が描かれていた。円に沿って、木炭のようなもので呪いが書かれていた。スフィンクスが手をかざすと、円は紫色の光りを放った。
「皇子……あれは……」
「恐らく魔導師様が仕掛けた魔法陣であろう。
あれをくぐりぬけたら、師のいる場所に行き着くはずだ」
先にスフィンクスが入って行く、タイガ、サー・ブルーとつづいて魔方陣をくぐる。出た先は、草原に忽然と存在する巨大な円形劇場の舞台の上だった。草木が茂り、劇場の壁は崩れておちていて、かろうじて円の形をとどめていた。だが、周囲にあったはずの建物のほとんどが消滅し、折れた柱を残したまま、都市は草地に埋もれていた。
「ここはどこだ?」
タイガはスフィンクスの妖艶な背中に目を奪われつつ尋ねた。
「客人、メリサンドの都と言えば判るであろう?」
スフィンクスはちらりとタイガに視線を送る。
「なるほど、ここがそうなのかーー」
タイガは息を呑んだ。
「メリサンドの者たちに、都なんかあったのか?」
サー・ブルーは首をかしげた。
「乳兄弟は母上の住いにある絵を見たことがないから知るまい」
「皇子、では、この地を描いた絵が、レーテル様のお暮らしになるオーブ城にあると?」
「いかにも。ここは忽然と姿を消した幻の都。ドラゴンとの間に生まれし、異形の者たちが集うメリサンドの都だ。十七年前、一夜のうちに消滅したのはこの場所だった。一一そうであろう? スフィンクス」
タイガの問にスフィンクスは表情を変えずに頷いた。
「タイガ様、私は噂の類いかと思っておりました」
サー・ブルーはにわかに信じがたいといった様子だ。
「私も絵の中で知るだけで、まさか自分がこの地を訪れようとは思いもしなかった」
タイガはオーブ城の絵を思い浮かべる。この地には、あのスフィンクスのように美しきメリサンドが大勢暮らしていたのだろう。その民が、虐殺されたとは誠に信じがたいことだとタイガは考えた。また、こうも思った。あのスフィンクスような美しき者に愛を打ち明けられたなら、自分は果たして拒むことができるのだろうかとも。
廃墟に紛れるようにして住居とおぼしき灯りが見えた。スフィンクスは顎でしゃくり、あれだと言った。
近づくにつれ、崩れた壁に板を打ちつけただけの、いたって粗末な小屋であることが分かった。
不意にドアが開いた。中から十四、五歳くらいの赤毛の少年が出てきた。
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