プロローグ/メリサンドと死魔

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プロローグ/メリサンドと死魔

   未明の陥落。瓦礫の間を熱風が地を這うように吹いていた。辺り一帯に遺体の焼ける異臭が立ち込め、いたるところで燃えかすが燻っていた。煙と粉塵のせいで視界が極めて悪かった。まだ暗さが残る中で、樹齢千年の大木を切り出して造られた巨大な荷馬車が、都の中心である大路をごとごとと車輪の音を響かせながら通過してゆくのがみえた。荷馬車もさることながら、それを引く農耕馬も巨大。その馬の手綱を引く男は身の丈十尺(約3メートル)もある巨漢の使い魔だった。しゃくれた顎は文字通りの馬面である。破れたズボンとはだけたシャツの間から赤黒い肌が露出していた。  この使い魔が向った先は、今では水晶柱を残すだけとなった宮殿。つい昨日まで、繁栄を極めた都の上をドラゴンが飛び交っていた。ご城下の広場では、リュートを奏でる吟遊詩人たちが恋の物語を歌いあげ、薄絹を纏う娘らは旅人を歓迎する花びらをまいていた。異国の商人たちはバザールに軒を連ねる宝石商から金品を買い求めた。砂漠に出現したオアシスのごとく人々に潤を与え、かつ、栄光に輝くクリスタルの都が、民の心のよりどころである宮殿と共に、一夜のうちに滅んでしまった。それも、たった一人の、この馬面の使い魔によって焦土と化したのだった。  宮殿の堀の前で使い魔は歩みを止めた。持っていた手綱を足元でまとわりつくように走り回る小鬼に託すと、荷台にかけてある帆布をめくりあげた。鼻をつく異臭いとともに、数百もの(しかばね)が無造作に乗せてあった。これは彼の獲物である。馬面男は屍を十体ほどまとめて担ぎ上げると、縦横数キロにも渡る巨大な黄泉の入口に向かって放り投げた。
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