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男のロマンが詰まったコンボ
「俺の身体って、全部お前でできてるんだな……」
唐突にポツリ、と。俺が作った牛丼を食べながらリクが呟いた。
「な、なんだよ、急に……」
向かい合って食べていた俺は、リクを直視できなくて牛丼を持ち上げて掻き込む。
まともになんて見られるか! だって俺は――。
「いつもありがとうな、雪也」
滅多に聞かないリクの柔らかな声。普段は抑揚がない上に淡々とした味気ない声と話し方。たぶん丼をずらせば笑顔が見られる気がする。リクの笑顔は超貴重だ。見たい。でも見たら理性がブッ飛びそうで、俺はどうにか堪える。
中江リク……大学で知り合った同じ科の友人。整ったキレイな顔立ちを、長くてサラサラとした漆黒の前髪で隠すコイツは、素材だけ見れば派手だ。格好も整えれば芸能人も霞むほどの逸材のハズ。
でも自分の容姿やオシャレに興味がないらしく、いつも格好は地味。何かポリシーがあるのだろうと思っていたが――ただの無頓着だと知った時には、妙に肩から力が抜けた。
そう。リクは色んなことに無頓着で、俺が定期的に様子を見ないと部屋は荒れ放題。食事もまともに取らず、どうしてお前一人暮らし始めた?! と毎度ツッコミを入れたくなるような生活力のなさだった。
だから俺がこうしてリクのアパートへ来て、食事を作るようになった。
友人だから放っておけないというのもあるが、ぶっちゃけ下心が強かった。
「雪也、愛してる。好き。お前なしじゃ生きられない。お前との出会いに毎日感謝してる」
ああ、リクに悪ふざけのスイッチが入った。他の奴らの前だと冷ややかな態度だが、俺と二人きりだと淡々と悪ノリしてくる。なんだよ、この平熱ハイテンション……人の気も知らずに。
俺はどんぶりをテーブルに置き、呆れたフリをして息をつく。
「せめてもう少し自炊しろよ。コンビニの弁当すら買いに行くの面倒って、よっぽどだぞ?」
「だって雪也のほうが美味しいし……これからも俺の体を作ってくれよ。ほら、お礼にコレ、俺が食べさせてやるから。ほら、あーんしろ、あーん」
リクが微笑みながら副菜のたくあんを箸で摘まみ、身を乗り出して俺の口元へ運ぼうとする。
だ、だから悪ノリするなって――ツツー……。
一気に頭へ熱が集まり、俺の鼻から鼻血が出た。
「お、おい、大丈夫か雪也? ちょっと横になれ、膝枕してやるから」
少し焦ってリクが俺に寄ってくる。そして正座して自分の膝を叩く。
……なんだよそのコンボ?! ベタ過ぎる……でも、抗えねぇ……っ。
俺はその場に崩れ落ち、リクとは反対のほうへ倒れ込んだ。
「……俺、今お前に殺されかけた……」
リクへの想いを自覚してからそろそろ一年。そんな俺に男のロマンが詰まったコンボは強烈だった。
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