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「そういえば亜由美、アレどうすんの?」
赤いスカイラインの中に彷徨いかけた思考が、絵里の問いかけで引き戻された。
「アレって?」
「夏合宿。行くよね? そろそろ返事しなきゃじゃなかった?」
ああ、夏合宿。すっかり忘れていた。
わたし達が所属する『ブルーウインド』は、テニスサークルとは名ばかりの、ただの飲みグループ。所属するメリットは、学内にやたら友達が増えることくらいだ。
去年の夏は確か、テニスコートがあるという理由で、わざわざ千葉の一宮まで行った。なのにテニスは初日だけで、残り二日は浜辺で飲むや食うやの大騒ぎ。まあ真剣にテニスがしたいわけじゃないし、楽しければなんでもいい。
でも、今年は──。
「わたし、パスしようかな」
「えっ、亜由美行かないの? なんで?」
目を大きく開いた絵里が、白い睫毛をぱちぱちと瞬かせた。
「うーん、日程がさ。土日絡んでるから」
「バイト?」
「んーまあ、そんなとこ」
軽く笑って、ドクターペッパーを口に流し込む。本当はアルバイトなんてない。わたしの居酒屋バイトは月水金だ。
でも、バイトみたいなものかも。だってお金を受け取っているんだから。
それにしても。あんなことを楽しい合宿より優先するなんて、わたしはアンポンタンだ。
「そっかあ。でもあれだね、亜由美が来ないとなると、洸太が泣いちゃうね?」
「あのね。それ絶対、絵里の気のせいだから」
洸太くんはサークルの後輩。この春に入ってきたピカピカの一年生だ。
絵里はこの間から、洸太くんがわたしのことを狙っている、と言って聞かない。まださほど親しくもないのに、なにを根拠にそう思うんだろう。
「そんなことないって。ねえ、亜由美的にはどうなの? 今彼氏いないよね? 年下はNG?」
「NGもなにも。洸太くんは別に、わた」
「あ! ウワサをすれば! 洸太ぁ!」
わたしの言葉を遮って、絵里が高い声を張り上げ、大きく手を振った。
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