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バカみたいに混雑した黄色い電車から吐き出されれば、すっかり見慣れたLOTTEの文字が目に入った。また来てしまった。平日の夜に呼び出される時はいつも錦糸町だ。そろそろ切符の回数券でも買おうかしら。
今日の待ち合わせは七時。不意に浮かんだピチカート・ファイブの『東京は夜の7時』を小さく口ずさみながら、帰宅途中のサラリーマンに紛れて階段を降り改札を抜ける。
夜七時前の錦糸町南口は、丸井や楽天地などの大きなビルが放つ光で煌びやかだ。丸井前の横断歩道をたくさんの人が行き交う。
でも、大きな丸井を両側から挟むのはWINSで、やたら目につくのは消費者金融のネオンサイン。道路にはタバコの吸殻が散乱しているし、たまに馬券や新聞も落ちている。
駅前でぼんやりと立っていたら、目の前を浮浪者みたいなボロボロの身なりの人が横切って、悪臭に顔をしかめた。せっかくシャワーを浴びて綺麗にしたのに、臭いが移っていたらどうしよう。
ここはシブヤでもシンジュクでもないけれど、やっぱり歌詞の通り、嘘みたいに輝く街だ。とても淋しい、だから会いたい。
「亜由美、待った?」
足元のアスファルトに向けてサビを歌っていると、頭上からやわらかい声。 ぱっと顔を上げれば、貴哉先輩の真っ黒な瞳が、長い前髪の隙間で弧を描いていた。
「うん、いい子に待ってました」
そう答えると、先輩の大きな手がわたしの頭をくしゃりと撫でる。まるでご主人様によしよしされるワンコだ。
「お腹空いたよね。なに食べたい?」
「うーん、お肉ですかね」
あとで魚肉ソーセージ食べるけどね、なんて笑えない冗談は口にしない。
「亜由美、ほんと肉しか言わないなあ。じゃあ、焼肉でも行く?」
「やった!」
行こうか、と踵を返した貴哉先輩の腕にぎゅうっとしがみつく。それを振りほどかない先輩がどう思っているのかは、聞かない。
今日も聞かないまま、ふたりで嘘みたいなネオンの街に溶けていく。だって、聞いたら世界が終わってしまいそうだもの。
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