プロローグ

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 ストロボみたいな黄色いオレンジが眩しくて、サンバイザーを下ろした。青く茂った街路樹達が、西日に照らされ影を伸ばし始める。  日が傾いてきたというのに、外はまだ蒸し暑いらしい。視界の左端で、誰かがパタパタと服の襟口を扇ぐ姿が、まるで走馬灯みたいにさっさと後方へ流れていった。  カーオーディオから流れるのは、GLAYのサバイバル。運転席の貴哉(たかや)先輩が、リズムに合わせて首を揺らし、ハンドルを指で弾く。  フロントガラス越しの赤みが差した空に、まっくろくろすけの大群が横切った。きっとあれはムクドリだ。これからどこかの電線や木に止まって、ピーチクパーチク騒ぐのだろう。  貴哉先輩はサバイバルのサビをご機嫌に口ずさみながら左にハンドルを切ると、少し行った先の広い敷地に入り、奥の端で車を停めた。他には長距離トラックが遠くに一台止まっているだけ。人っ子一人いない。  無駄にだだっ広いだけの駐車場。もうすっかり見慣れた景色だ。  この駐車場は公園に併設されているけれど、別にこれから夕方の公園デートを楽しもうというわけじゃない。もっと、きっと、もしかしたらこの世でいちばんくだらないかもしれない時間を今から過ごすのだ。  ボーカルのテルはどこまでも広がる空の情景を高らかに歌う。けれど、今わたしの目の前は、なんの変哲もない駐車場の壁しかない。その壁すらも、今から数分は見えなくなる。  曲が終わり、一瞬しんと静まった車内。外から聞こえてきたのは、ムクドリじゃなくてカラスのカァ、カァ、という鳴き声だった。きっと、わたしのことをバカにしているのだ。
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