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貴哉先輩が太ももをぐっと閉じる。そろそろイク合図だ。唇と舌で弄びながら右手で素早く扱くと、先輩は「うっ」と声を漏らして、わたしの口内でソレをびくびくと震わせた。
吐き出された液体をひと思いに飲み込めば、腐ったカルピスを飲んだようなねばねばが喉に張り付いた。慌てて手を伸ばしたペットボトルのお茶が不味い。
先輩はわたしのしかめっ面を気にも止めない。役目を終えたモノを、ティッシュで丹念に拭いている。
顎が痛い。このままだと、夏が終わる頃には顎が外れて、ムンクかダッチワイフみたいな顔になっているかも。
「亜由美、はい」
先輩が差し出した一万円札を、ぺこりと小さく会釈して受け取る。そのままくしゃっと丸めて、ジーンズの後ろのポケットに突っ込んだ。
「ちょっと外出ますね」
口の中にまで漂う異臭が気になって、車から飛び出した。急いで深呼吸したものの、空気は全然爽やかじゃない。じっとりとした湿気が肌にまとわりついて気持ち悪い。
一九九九年、七月──。ノストラダムスの大予言は、今月で世界は破滅するなんて言っている。まあ、それでもどうせ、来週末も世界は続いていて、わたしはこの赤い車の中でまたソーセージをしゃぶるのだ。
けれどもし、もうすぐ世界が終わってしまうなら。その前に、とびきりロマンチックな恋を、一度でいいからしてみたい。
こんな、苦い粘り気が口の中に残ったりしないような、甘くてキラキラな恋を。
タバコを吸おうと手を突っ込んだお尻のポケットから、さっきのお札がぽろりと落ちた。アスファルトの上で、福沢諭吉が歪んだ笑みを浮かべる。
夕闇が迫る空。カラスのバカにしたような鳴き声がむなしく響いた。
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