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写真の中のわたしは制服姿だ。その隣には、卒業証書の筒を手に微笑む、大好きだった人。わたしは自分の卒業式でもないのに、今にも泣きそうな顔で笑っている。
思い出は思い出のままがよかった。
タバコを灰皿にぎゅうっと押し付けてから、そろそろ準備しようと立ち上がった。
あんな人、もう全然好きじゃない。こんな写真はもう捨ててしまおう。
そう思いながら写真立てに手を伸ばして。でも、やっぱり今日も伏せることすらできなかった。まるで未だに大好きみたいでイヤになる。
ポリンキーの軽快なCMソングを流すテレビを、八つ当たりするようにブチッと消した。白い光がブラウン管の中央に収束して、プツンと消える。
わたしの気持ちもこんな風に、消滅してしまえばいいのに。
ぬるめのシャワーを浴びてから、昨日パルコで買ったばかりの、ヒステリックグラマーのTシャツに袖を通す。大学生のくせに一枚一万円近くするヒスのTシャツを買えるのは、もちろん貴哉先輩のお陰だ。
先輩のアレをぺろぺろして手にする一万円は、いつもすぐ使うようにしている。使ったからって、受け取った事実が消えるわけでもないのはわかっているけれど。
ねえ、先輩はどうして……。
考えないようにしていた疑問が頭をもたげ、それを追い払うように、収れん化粧水をパチパチと肌に叩き込んだ。
軽くメイクをして、テーブルの上の充電器にささったピッチを拾い上げる。時刻はもう八時半。慌てて玄関を出たら、夏のもわっとした空気が肌に絡みついた。
階段を降りながら、MDウォークマンのイヤホンを耳に突っ込む。再生ボタンを押すとすぐに、がなるようなボーカルが耳をさいた。ミッシェルガンエレファントの『世界の終わり』だ。
──ねえ、貴哉先輩。
いつまでも引きずったままのこの気持ちは、世界が終わるまでに消えてくれるかしら。
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