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「絵里も二限が無駄に空いてるクチでしょ? 無計画仲間」
「残念でした、アタシは二限がテストじゃなくてレポートなだけですー」
絵里は得意げな顔で言うと、マニキュアで真っピンクな指先を、テーブル上のヴァージニアスリムに伸ばす。
これだけ派手に着飾っている彼女は法学部。うちの大学の底辺と言われる教育学部のわたしと違って、実はとても優秀だ。人は見かけによらない。
「なーんだ、つまんないの」
それにしても、細くて軽くてコスパが悪そうなタバコ。と思いながら、わたしもジーンズのポケットのセブンスターを取り出した。ここ第一食堂のいいところは、タバコが吸えること。他の食堂は吸えないのだ。
「ねえ、ずっと気になってたけど、亜由美って元ヤンなの?」
火をつけている最中だから、視線と「なんで?」という首の傾きだけで返事をする。
「だってセッターってヤンキータバコだし」
「あーよく言うよね」
喋ったら口の端からスパスパと煙がもれた。おじさんみたい。ところで、セブンスターを略すとセッターになる法則がわからないのはわたしだけかしら。
「っていうか、そもそも未成年からタバコ吸ってる時点で不良か」
「大丈夫、わたし今月でハタチだから」
「亜由美、それどういう大丈夫?」
「あ、ただの誕生日アピール。三十一日だからよろしくー」
ヘラッと笑って言えば、絵里が「ワタシニホンゴワカラナイヨ」とカタコトで返す。そこから話題は全く別の方向へと進んだ。
無事に話が逸れ、そっと胸を撫で下ろす。喫煙を始めた理由が、岡崎京子の漫画に憧れただけってことは、恥ずかしくて言えやしない。
なんて考えていたら、不意に『私は貴兄のオモチャなの』という作品タイトルを思い出した。確か、好きな人の性の奴隷になるしょうもない話だ。
でも性奴隷の方がまだマシ。わたしなんて『貴兄のワンコ』だもの。
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