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「あんたに学費は出せないから。とっとと出てってよね。」
「・・・え?」
ドラマでしか聞いたことがないセリフに、血筋でないとはいえこんなことを言う親がいるのかと改めて実感した。
「栞が特待合格したの。そっちにお金回さなきゃいけないから。」
「・・・そう。」
私は冷静だった。どれだけプレッシャーに答えて優等生を装っても、どうせ最後は全部栞に持っていかれることは分かっていたから。
もう慣れてしまったのだ。この家の空気も 冷めた視線も。
言われなくても早く脱出したかった。
私は部屋の整理に取り掛かった。前々から必要な雑貨や洋服は全て準備してた甲斐もあり、あとは大きめのバッグに詰めるだけだった。
「えー ついに家出すんのー?」
この声を聞くのもあと少しの辛抱だ。
「・・・受かったんだってね。大学。」
「受かったっていうかー受かっちゃったって感じ?ママって友達いっぱいいるから♪」
「・・・なんでお母さんが出てくるの?」
変な予感が的中しないでほしい・・・そんな思いは弾丸を打ちこまれたように砕け散った。
「ママね― あの大学の上の人といい感じなんだよー♪」
「・・・どういうこと・・・?」
「はぁ?なんで分かんないの?良いのは成績だけかよ。ママが頼めば何でも言う事聞いてくれる人なんだって。」
「・・・なにそれ・・・」
怪しいとは思っていた。
仕事をしていないはずの女が なぜあんなに着飾れるのか。なぜ私に家事を全部押し付けて 週1で家を空けるのか。
父は必要な額しか入れていないのに・・・。
「どーせパパだってさー あっちでいい人見つけてるんじゃないのー??」
プチン と 何かが弾け跳ぶ。
私は無意識のうちに 栞を平手で殴っていた。
聞いたこともないような音を響かせて 栞は倒れ込む。
駆け上がってくる女の金切り声をほぼ体当たりで突破し 私は電光石火のごとく家を飛び出した。
「・・・そうか・・・よく1人でこれたな・・・。」
「・・・ごめん・・・お父さん・・・できるだけ早く出ていくから・・・」
「あとはお父さんがやっておく・・・お前はゆっくり休みなさい。」
「うん・・・」
長距離移動の疲れと 久しぶりに聞いた父の声への安堵 何よりあの家から解放され脱力した感覚が押し寄せ 私はソファーで眠りについた。
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