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その日もいつものように画像処理をしていた。
ピコンっと 小さい音と共にスマートフォンの画面が光る。
父からだった。
『灯里。急で悪いんだが、今日逢えないか?』
本当に急な話だ。何かあったのだろうか。
とりあえず返信する。
『いいよ。駅前のカフェで良い?』
「急に呼び出してすまなかったな・・・灯里」
「ううん。大丈夫・・・」
久しぶりの親子の対面には、少々ギクシャクした空気が流れる。
父もいい歳だ。呼び出した理由には、色々な憶測が飛び交ってしまう。
「・・・実は・・・父さん 離婚したんだ。」
「・・・そうなんだ」
特に何も感情は起きなかった。あの女には、親としての尊敬も愛も、微塵にも感じていなかったからだ。逆になぜ今まで切り出せなかったのか・・・父にも問いたい気分だった。
「父さんが・・・もう少しちゃんとしていれば・・・」
「お父さんのせいじゃないよ・・・」
店内に響くジャズミュージックが、辛うじて不穏な雰囲気を打ち消してくれる。
「母さんから一方的に連絡が来て・・・家に帰ったら、判を押された離婚届だけが置いてあったんだ。」
「・・・」
本当にそんな光景が現実に起こり得るんだ・・・心の底でちょっと拍子抜けする。
「・・・栞は?元気そうだった・・・?」
父の前では隠さなくては・・・その思いが今でも働いてしまう。
「・・・・・・」
父は押し黙る。
その顔は かつてボストンバック1つで訪ねてきた私を部屋に入れた時のように真剣だった。
「・・・え・・・・・・栞・・・どうかしたの・・・?」
あんなに嫌いなやつだったのに、なぜか胸騒ぎが激しくなる。
しばらくの沈黙を破るように 父は口を開く。
「・・・いつかお前に話さなくてはいけないと思ってたんだ」
父はスマートフォンの画面を見せてきた。
忘れもしない 家を飛び出した日付と共に、メッセージが浮かんでいる。
『お姉ちゃんが出ていった。もしお父さんのところに来たら、しばらく置いてあげて。』
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