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さっそく予定外のようです。
「……で、ここなわけだが」
気がつくと、何も無い原っぱに佇んでいた。周りを見渡しても何も無い。どうやら相当の田舎に放り出されたらしい。
「なんだよ神様……せめてでっかい国の近くに下ろしてくれりゃいいのに」
『でっかい国の近くだよ、ここ』
「そうなのか? でもそんなのどこにも──!?」
そこまで言って俺は辺りを見回す。誰もいない、間違いなく。でも、誰かはいた。
「だ、誰だよ今の声!?」
『あぁ、ごめんごめん。驚かせたね。私は君の脳に直接声を届けてるんだ。だから姿はないんだよ』
「も、もしかしてじぃさんが言った『説明役』って……」
『そ。私は《賢神》って言うの。好きなように呼んで』
「そ、そっか……じゃあ……」
そこまで考えて、俺の脳に衝撃が走った。
「な、なぁ、《賢神》さんよ」
『何?』
「なんかあんたの声……俺が好きだったアイドルに瓜二つに聞こえるんだが……」
間違えるはずがない。何百回と聞いた彼女の声、この脳に響く可愛らしい声は間違いなく彼女のもの。一体どういう……。
『あぁそのこと? 多分私の声は君が好きな人の声で再生されるようになってるはずだよ。それがその人だったって話じゃないかな?』
「神か!!!!!!???」
『神だよ?』
これはつまり、俺が好きだったアイドルと常に一緒にいられることと同義。素晴らしい、素晴らしすぎる。
「俺……この世界に来て……良かった……」
『泣くほど!?』
「もう、思い残すことは何も無い!」
『今来たばっかだよね!?』
何を言う。擬似的とはいえ大好きなアイドルと個人的に話せるなど、これ以上の喜びはない。
「で、ではその……『朱音様』と呼ばせて頂きます!」
『……なんかすごい微妙な気持ちだけど、ま、まぁいいよ。ここから右の方に行くと、この世界の大国の1つにたどり着くわ。国の名は《ブレイダル》』
「どんなとこなんですか、そこは?」
『敬語は使わないでよ。私はその本人じゃないし、そんなに畏まられるの嫌いなの。神様歴も長くないしね』
神様にも年功序列みたいなものがあるらしい。
「わ、わかった。それで朱音、さっきの質問だけど……」
『国については詳しく私も分からない。私はあくまでこの世界での貴方のサポート役。私が全部考えて動かないように、こっちの知識は最低限しか貰ってないの』
なるほど。確かにこの朱音の言う通りにして世界を救えたとしても、それはアイドルの力とかでは無いと思われて褒美を貰えるかは怪しい。正しい判断か。
『ただ、こっちの文字や言葉は私が翻訳して日本語に見えるようにしてあるし、聞こえるようになってるからコミュニケーションには困らないはずよ。それから……貴方の力について』
「そう言えば神様のじぃさんが言ってたな。『俺にお似合いの力を授ける』って」
『今回はチュートリアルみたいなものだから、まずは右手を出してみて』
「こうか?」
俺が右手を開いてみせると、
「うお!?」
右手の掌から溢れんばかりの金貨が湧いてきた。なんだこりゃ!?
『これが貴方の能力、《貴方が想像したことを現実にする力》よ。貴方が想像したことは全部現実になる。今回は《この世界のお金が欲しい》って想像を現実にしたわ』
「チート過ぎじゃねぇか!!!?」
そんなもんどうやったって上手く行くに決まってる。だって『アイドルを成功させる』って想像すればそれで終わりだ。
『言ったでしょ? これはチュートリアル。この力を使うには制限があるの』
「制限?」
『そう。この力は《アイドルの為にしか使えない》の。この意味が分かる?』
「!?」
『使い方はまず、私に力を使う《理由》を提示する。それを上にいる上位神達が審議し、それが真っ当な理由だった場合のみ力を行使できるわ』
「……も、もし、真っ当な理由じゃなければ?」
「1度でも真っ当でないと審議された場合、二度とこの力は使えない。それがこの力の最大のリスクよ」
「……1度でも、か」
『……まずこれから貴方には、この世界でアイドルになり得る子のスカウトをしてもらう。そしてその子達をアイドルにし、世界を笑顔に満たすことが出来れば貴方の望みは叶う。けれど、もしその前に死んだり、アイドルを作れなかったり、上が無理と判断した場合は……』
「……ゲームオーバー、か」
1度でもミスすれば、ただの人間として条件をクリアしなきゃいけないってわけか。
「でもさぁ、実際こんな力なんか使わなくてもいいだろうよ」
『へぇ……本当に?』
「だって元の世界だって特殊な能力とかでアイドルをプロデュースした人なんていないし、要は熱意と根性だろ? こんなチートじみた能力なんかに頼らなくても──」
──ズシン! ズシン!
「…………へ?」
『あ、言い忘れてたけどね』
振り返ると、目の前にめっちゃデカい恐竜がいた。
『この世界、魔物がそこら中にいるからね』
早くも、俺の予定は狂い始めた気がしている。
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