ゴブリンの合従策

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ゴブリンとオーク、そしてドワーフの死体が、見るも無残な姿で地に捨て置かれている。 立派な鎧や武具は奪い取られ、倒した証拠とばかりに耳をえぐり取られている者もいた。眼を潰され、顔は引き裂かれていた。 戦いは終わり、生きのこれた者は皆、すでにこの地を引き払っている。 カラスや野犬、ネズミの群れが、現れては腹を満たして、去って行く。 日が落ちようとする夕暮れ時、馬に乗ったエルフが地獄を体現したかのような、この戦のあと地に現れた。 死臭を馬が嫌って、前に進めないでいる。 エルフは馬を降り、頭を優しくなでてやった。 あたり一面をゆっくりと見わたしてみる。 山の位置と太陽の位置を確認して、目指す方角を決めていた。 手綱を引きながら、失われた命の合間を進んでいく。 すでに勝者であるヒトの軍司令部も陣幕を引き払っていた。 ここに将が集っていたことを示すのは、敗軍の将兵の首であり、身体だった。 オーク、ゴブリン、ドワーフの将兵の首が20ばかり、一か所に置き捨てられている。首実検を行ったあとだった。 死体が転がる戦のあと地に現れたエルフはこの場所を目指していた。 表情を変えることなく首が置き捨てられた場所へと真っすぐに進む。 うち捨てられた首を眺めた。そっとどかして、うもれた首の中から、一つ、ゴブリンの首を、恐れることなく両手で拾い上げる。 エルフはゴブリンの首に向かって話しかけた。 「ヒトは労働を嫌う我らに、衣食を送ってきたよ。物資だけではない。食を作る奴、衣を縫う奴、住処を掃き清める奴まで、送ってきたよ。おかげてエルフは皆、研究に明け暮れて、至れり尽くせりの毎日だ」 首を掻き切られたゴブリンは目を大きく見開いたままだった。 「よくやったよ、お前は」 瞼を閉じさせようと手で触れてみても、死後硬直して動かない。 「100年200年後、お前が言ったとおりになるはずだ。この世界はヒトで埋まる。歴史は勝者のモノでしかないから・・・」 エルフは首に向けて誓いをたてた。 「私が、書き記してやる、お前のことを。ちゃんと抗った者がいたということを、私が残してやる」 首を抱えて、エルフもこの地を去って行った。
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