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戦いが始まる。
太鼓を打ち鳴らす音、ほら貝を吹きならす音、両軍兵士たちの、あらん限りの声が響いた。
オーク、ゴブリン、ドワーフがヒトの軍を切り裂いていく。
ヒトは弓兵、石弓兵、長槍の部隊を多く配置し距離を取り戦いを行っていた。
弓を身体に受けながらも突進を止めないオーク。
迫りくる矢を避け、間合いに入り込むゴブリン。
盾を用いて、矢をのけてヒトの部隊を押しのけるドワーフ。
オークはこの戦いに種族の滅亡をかけていた。戦士のほとんどが駆り出され、この戦場にいた。平均2メートルの巨体で、剣、斧、こん棒を振り回し、ヒトをなぎ倒していく。
ヒトは接近戦を嫌い、ひたすら距離を取って遠方から弓を放った。力が尽きてきたと見るや騎馬兵による突進を行う。足元がふらつき始めたオークには、10人単位で密集して槍を突き立てて倒していった。
一進一退の攻防が繰り広げられている。
ゴブリンもまた、この戦いを企てた種族として、一歩も退くわけにはいかない。できうる限りの兵を招集している。ルノと共にモスレロアで辛酸をなめた皇子フミナスが総大将を務めていた。
多くの速さを売りにする兵士が駆け巡り、ヒトを切り裂いていく。隊列が乱れ、混乱した中に、重量のゴブリン兵が突進し、蹴散らした。スフレムも、この中で一兵士として戦闘を行っている。
ここでもヒトは接近戦を避けるため、弓兵が並んでいた。射られた矢を交わし、接近戦に持ち込もうとするせめぎあいがある。
速度の遅い矢はかわせど、両手でひく石弓兵が放つ矢を多くのゴブリンは、避けきれず負傷した。動きが鈍った者には容赦なく、槍兵が襲い掛かっていく。
ドワーフに対し、ルノは信頼を置いていた。軍を率いる将軍ナハトルが、熱心に耳を傾けてくれ、ルノのよき理解者であったのだ。
ドワーフは身長150前後とゴブリンと同様、小さめの体躯ではあるものの、皆が骨太で筋骨隆々である。オークに劣らない力を持つ戦士もいた。
彼らの戦い方も長剣、斧、槍などを手になぎ倒していく、真っ直ぐな戦い方である。
ヒトはオーク同様に距離を取る。弓兵と槍兵が交互に攻撃を行っていた。
コボルトの軍を預かるラリは兵を前進させることをためらった。コボルトが陣取った山のふもと近くには、ハーフリングとトロールの軍勢があるのだが、いまだ動かないためである。
彼らが裏切り、横から攻め込まれたらと思うと、兵を前進するのをためらっていた。向かってくるヒトの敵兵を薙ぎ払いはしたが、あえて前進はしない。
睨みあうだけに終始している。
ハーフリングの将は戦況を眺めていた。
8万もの兵を集めたヒトに対して驚愕していた。自らの種族、老若男女全てをかき集めたとしても、この数に及ぶかどうか。
オーク、ゴブリン、ドワーフが集めた兵士は一万にも満たない。
それでも一進一退か。どちらに与すべきか、今となっても判断がつかない。
トロールも同じであった。
ハーフリングやコボルトと同じ方向に兵を動かすべきと考えていた。
戦の始まる前から、エルフとノームはヒトの側に立つと、もっぱらの噂であったから。ヒト対全種族という図式は初めからなりたっていなかった。。
コボルト、ハーフリング、トロールといった数の少ない種族たちにとっては、これまでの歴史において、オーク、ゴブリン、ドワーフいずれに対しても、良い感情などは持っていない。
それらは強く、数も多いため、ただ恐れるべき種族であった。それが今やヒトに変わっただけであり、強者に逆らうことなく、生存を図る戦略をこれまで通りにとることが大事だった。
彼らは、隣の山に陣するエルフとノームの動きを見た。少数の種族にとって、エルフは盟主的な存在だった。
*
早朝に戦端が開かれて、交差する部隊の前後が何度となく入れ代わった。
正午を迎える頃には、両軍、疲れ果て、動きが鈍い。
ヒトの陣から、黒煙がのぼった。
エルフの陣にてレスタニアスに、伝令が走る。甲冑に身にまとったレスタニアスはうなづき、指示をだした。
その横、マリエルは板の上に寝かされている。両手には手鎖がついていた。
心ここにあらずといった呆けた娘を横目で見ながら、レスタニアスが声を発した。
「行くぞっ!」
馬に乗り山を駆け下りていく。エルフ、ノームの兵士、に騎馬隊、そしてゴーレムの巨人が10体、最後尾で後を追った。
コボルトの将が慌てたように声を上げる。
「全軍、ゴブリンに向けて兵を進めよ!」
ハーフリング、トロールもこれにならって、エルフと共に進む。
スフレムは長剣で襲い掛かる敵兵を相手にしていた。
戦場の空気が変わっていくのを感じた。
「ここまでか・・」
槍を振りかざしてきたヒトを交わして、すれ違いざまに切り捨てた。
「ここまで時を稼ぐのに、精一杯であったかな・・」
エルフが陣取る山を見つめた。
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