ゴブリンの合従策

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 エルフの最高意志決定機関である評議会のメンバーは年配の爺婆ばかりである。軍事を担うマリレルの父レスタニアスが最年少か。  彼らの前に立ち、ルノはとうとうと捲し立てた。しかしながら、反応はかんばしくない。 「エルフに何の利益があるのか? もたらすのか?」 こちらばかりを問われた。 種の存続という問題提起に、のってこない。 ルノは手ごたえをつかめぬまま、部屋を出ていく評議会の面々と握手を交わした。 エルフの軍司令であるレスタニアスがルノの前に立つ。 「ご苦労でした。個人的には、ヒトとは緊張状態を保っていたいとは思う。これ以上、ヒトの勢力が増しては、それも難しくなる」 ルノは目を輝かせる。 「ありがとうございます! そのお言葉で、ここまで来たかいがあったというものです」 「うむ。・・我々評議員は皆から選ばれた者たちだ。民意を損ねることはできない。次回は、皆が喜ぶものを用意してくれ」 ルノの中には、種族会議にもエルフ代表として参加してくれたレスタニアスは味方であるとの思い込みがあった。 失礼ながら、とルノは切り出す。 「エルフの方々は、自身の時の長さ故、次の未来を、思い描けないのでしょうか?」 「・・・かもしれん。ヒトやゴブリンが3世代かかって過ごす時間をエルフは 己のみで費やすのだから」 ヒトやゴブリンの寿命が50~60であるのに対して、エルフは平均で200年を過ごすと言われている。 「時の概念が異なるのだ、それは理解してもらいたい」 「はい・・」 「種族において、価値観が何もかも異なるよ。それを理解し、まとめあげるのは大変なことだ」 「次は、大きな土産をもって、参ります」 二人は握手を交わした。 レスタニアスは出入り口に控える娘のマリレルに声をかけ、肩をポンっとはたいたあと、部屋を出ていく。                 * マリレルが二人に声をかける。 「今日はこれで終わりにしよう。明日、出発だ。国境まで見送る」 「ありがとうございます」 ルノが深々と頭を下げた。 「父上から、お前たちに一枚の絵を見せるように言われた」 「絵ですか?」 「昔の絵だ。描いた者はわからぬ。これから美術庫に案内してやる」 マリレルの後を二人が続いた。 歩きながら、ルノは、エルフに何をもたらせばよいのか、考えていた。 「マリレル殿、ヒトは今、この国にどれほどいるのか?」 「ん? さぁ、よくわからぬが、千ぐらいかな?」 「・・・そんなに」  今や、エルフとヒトとの結びつきは固い。ヒトはエルフが望む日々の労働と日常品を提供することで、『魔法』というエルフやノームにのみ許された術を必要な場に与えてもらっている。 「エルフと手を組み、まずオーク、そして、次に我らゴブリンを絶滅させるつもりだろうな」  ルノは、労働を担う者として雇われたヒトの多さに驚き、エルフとヒトの密接さを強く感じていた。 「そしてドワーフ、トロール、コボルトの順であろうか。そして、最後にはノームもエルフも滅ぼされる」  マリレルはルノの独り言に不快だった。 「ふん、それは何度も聞いた。我が国は、民意で動いている。簡単にはいかぬのだ」  エルフの国に、ヒトから大量の物品が入っていることは聞き及んでいたものの、労働力もすでにヒトが補っていたことが衝撃だった。もう、すでにエルフはヒトに浸食されており、戻ることなどできないのではないかと、ルノは思う。 「ヒトは短命であるから、世代を超えて100年、200年の計画を立てているのかもしれない」 「異種を滅ぼし、ヒトが世界を支配する計画?」 マリレルの問いに、ルノがうなづく。 「ゴブリンだけの世界など考えたこともないが、ヒトはたぶん、ヒトだけの未来を描いている。どんな世界だろう? ヒトのみの世界では、争いはないのだろうか?」 「どうかな? ヒト同士で、殺しあうんじゃない?」 「・・・・・。もし、ヒト同志がいがみ合うのなら、ヒトの中に我々に手を貸す者はいないだろうか!?」 マリレルはう~んと、頭をひねった。 集団が全て、一枚岩であるはずはない。今を面白くおもっていないヒトもいるのではないか。異種と手を結びたいと願っているヒトもいるのではないか。 「スフレム殿いかがだろう?」 「難しいのでは」 「というと?」 「残るはエルフのみ、そんな時だろう。異種殲滅にめどがついた時だ。ヒトが互いに争うのは」 マリレルが足を止める。鍵束から、ふさわしい一本を見つけて、差し込んだ。 扉を開ける。 壁面に所狭しと絵画が飾られている。数メートル四方の大きなものから、四方合計1メートルにも満たないものまで、さまざまだ。 マリレルは左隅の絵をさし示した。縦30横1メートルの長方形の作品だった。 「昔の絵だ。古代語で『収穫祭』と書かれている」 隅に刻まれた文字をマリレルが解説した。 その絵には、エルフ、ゴブリン、オークにドワーフ、ノーム、トロール、ヒト、コボルト、ハーフリングといった様々な種族が共に宴をひらき、踊り歌う姿が、つたない線で描かれていた。 「これは想像のものでしょうか? それとも実際にあったこと?」 「はるか昔のモノだ。わからぬ」 マリレルのそっけない返答に、ルノは苦笑した。 そして改めて、決心する。このような場を設けることができればと。 種族間の力が不均衡すぎるのだ。 ルノはヒトをせん滅すべしとは、つゆほども思っていない。 ただただ、この不均衡すぎる力関係を、数の割合を是正せねばならない。 ヒトは現在の、十分の一に数を減らして、他の種族は数倍まし。これがルノの理想だった。 「マリレル殿、いつか力をお貸しください。私は、このような世界を作りたいのです」
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