ゴブリンの合従策

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ルノとスフレムは薄暗い部屋、大きな石の椅子に腰かけて、王の帰還を待ちわびていた。 今、二人はオークの国にいる。 「おうっ! 待たせたな!!」 扉をドーン! と派手に開けて入ってきたのは、オークの王だった。顔が鎧が赤黒く染まっている。 ルノは血だるまの王の登場に驚き、声をのんだ。 「だ、大丈夫ですか?」 オークの王は大きな笑い声をあげてこたえる。 「大丈夫も何もないわ! 全部、相手の血じゃ。わしは傷ひとつ負ってないわ!! おいっ! 早く湯をくれんかっ!」 二人は目をみはった。 ルノが不思議そうに尋ねる。 「王の敵は何者ですか?」 「おぅ、どいつやと思う?」 「・・・ヒトでしょうか?」 「そうじゃ。あいつら、ここ最近、うちの山にちまちまと入ってきやがる。頭きたからな、5.6人ふっとばしてやったわ!」 「はは、さすがオークの王・・」 ルノはオークの力強さ、豪快さ、ふてぶてしさに目をむいた。 スアレスは黙って、オークの2mはある体躯を眺めている。 女のオークが2名、湯を入れた桶を持って入ってくる。湯に浸した手ぬぐいを王に渡した。 王はそれで、汚れた顔をぬぐい、気持ちよさそうに「ふーっ」と息をついた。 ルノとスアレスの前に出された酒を手に取り、一息で飲み込む。 「はっー!」 気持ちよさそうに笑顔を二人に向けて見せた。 「戦いのあとの酒はうまいな!」 ルノも笑ってこたえる。 「しかし、ヒトはこんな所まで、入り込んでいるのですね」 「そうじゃ、奴らはゴキブリのようだ。油断ならぬ」 女のオークが、王の鎧を取り外しにかかる。一人は身体をぬぐってやっている。 「そうじゃ。耳にはいっておるか? 奴ら死海をどうにかしようとたくらんでるらしいぞ」  二人は、自国を離れていることもあり、初耳だった。 「あの、塩の海ですか?」 「そうじゃ」 「武力で奪うと?」 「いや、採掘、精製、運搬を全部、ヒトがやるから、どうたらこうたら言ってたぞ」  オークの王にルノは信頼を置いていた。ヒトと戦うことに、最も熱心であり、すぐやろう、今やろうと、ルノは発破をかけられている。 「現在もヒトは、エルフから塩に関する全てを委託されているはず」 「ほぅ、その申し出にハーフリングやコボルトがのるとかのらんとか、言うとった」  塩の海の死海は、古代から全種族共有の地として存在している。それぞれ、必要な量を採取し、自国まで運んでいた。 各国、最初に開けた大きな道は死海まで達する塩の道だった。 「エルフのような客を獲得しようということか」 「奴らが言うには、ヒトが全てを担うことにより、かかる費用がずっと安くなると言っとる」 エルフは炎天下で塩を採掘し、自国まで運ぶ者がいないとのことで、すでに塩にかかる全てをヒトに委託している。 「それはいけません。ヒトに生活を依存していってはダメだ」 「しかし、うちの奴らも、あーいう仕事はやりたがらんからなぁ、最近はドワーフと物々交換しとるぐらいじゃ」 「ダメですよ、もっての外です。そのような誘いに乗ってはいけない」 「自国でやるより、ずっと安く済むと言われちゃあなぁ、お前らのとこで、何とかできんのか?」 「何とかですか、うーん・・」 ルノは頭を抱えている。 「これを大義名分に一つにしよう」 スアレスが口を開いた。 「ヒトに価格の決定権を与えてはいけない」 ルノもうなづく。 「どこの種族にも反対する者が少なからずいるはず。そのあたりからも口説いていけよう」 「はい、とにかく現状を維持していかねば」 扉が開き、女のオークが、酒や料理を抱えて入ってくる。 「おっ! きたきたっ!」 テーブルに並べられる料理をみて、オークの王が涎をたらしている。 「腹いっぱい食ってくれ! お前はもっとでっかくならにゃぁ、いけんだろ!」 1m50cmほどの身長である、ルノの肩を叩く。 王は両手で肉をとり、かぶりつく。 ルノも負けじと大きく口を開けて、飲み込んだ。 スアレスは葡萄酒を、自分の器に注ぎ、静かに飲んでいる。 「もう、他の奴らはいいじゃねえか。オークとゴブリンでやろうぜ!」 「・・・・・」 ルノは口にしていた食べ物を急いで飲み込んでから、声を出した。 「オークの戦闘員は現在、どれほどでしょうか? 1千ほど?」 「まー、そんなもんやろ。でもなぁ、1人で、ヒトを10人は相手にしてやるぞ。わしは30はやってやるぞ」 「ゴブリンは5千~6千です」 「ほう、まぁまぁいるやん」 ルノは首をふる。 「ヒトは今や、10万を動員することが可能とのこと」 「嘘だ!」 オークの王は真っ向、否定した。 「多少、もった話しかもしれませぬが、近い数はいるはずです」 「戦闘員だけで10万か!?」 「はい、10万です」 「ならば奴らは数百万はいるってことか?」 信じがたいという顔をしている。 「おそらくそれに近い数がいるはず。だからなんでも欲しがるし、何でもやってみせるのでしょう」 オーク王は高笑いする。 「ははは。やってやってやりまっくてやるわ、そんだけいるなら、いくら殺しまくっても減らんのぉ。いくらでも楽しめるじゃねーか」 ルノは苦笑いをして、オーク王の言葉を受け流して見せた。 「王、必ず我々が皆をまとめてまいります。それまではどうか防衛に徹し、兵力を損なわないでいただきたい」 「‥本当に、やる気はあるんか?」 「もちろん」 ルノが即答する。 「私はこの腕と、たくさんのものをヒトとの戦いで失った。もう一度、戦わないでは死ねぬ」 スアレスが葡萄酒の入った器を空にした。 オーク王はもうひとつだけ、と人差し指をあげた。 「どれほど時間がかかる?」 「2年・・。いえ、1年半後には歴史を変える戦を開きましょう!」 「なるほど。待っているわけにはいかぬか」 「私はエルフの一部は加担してくれるのではないかと思うのです。種族をあげてが無理ならば、一部の者の力だけでも借りましょう。あのマリレルという女戦士など現状を憂いておりました。賛同してくれる者はありましょう」 「確かに、このままやるしかない」 「ええ。皆をまとめあげ、大戦を開きましょう。勝った暁には、この地域をやると言ってしまえばいい」 「え・・?」 「ヒトを倒すことだけを考えましょう。その後のことはどうでもよい」 「確かに」 3人はエルフの評議会の面々との会談を終え、足取り重く、オークが住む山々の麓へと向かっていた。 評議会の面々との会談はエルフの守備隊長マリレルが示唆したように、「エルフにとって何の利益があるのか」と幾度も指摘を受けた。
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