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殺人事件
「今日さ、花好きのおじいさんと会ったんだけど、ばぁちゃんも花好きだよね? 荒子川公園のラベンダー知ってる?」
青城は夜のテレビニュースを見ながら、祖母に尋ねる。
青城の父は転勤族だったため、青城は愛知県警に入ってから、名古屋の祖母の家で暮らしているのだ。
「そりゃ、知ってるわよ。この辺りの花見できるとこは知っとるがな」
一緒にニュースを見ている青城の祖母がしるこサンド(名古屋のスナック菓子)をかじりながら、答える。
「…………え? え?」
青城がニュースを見て急に固まった。
「たつひろ、どうしたの?」
祖母は心配そうに孫の辰広を見る。
「今ニュースで、殺害された女性と同居していたベトナム国籍の男性が事件後行方をくらまし、容疑者として捜索中と報道していたけど……。
映っている人物が…………、昼間の店で見た男にそっくりなんだよ」
「あらま。ホントに?」
「うん……。早朝アパートでベトナム人女性が殺害されたってことは知ってたんだけど。まさかね……」
((これは、上に報告すべきか? いや、似ていただけかもしれないし……うーん。明日またあの店に行ってみよ))
眠気の限界だった青城は考えるのをやめて、「おやすみ」と、自室へと向かった。
そのころ、名港(名古屋港の略)近くの倉庫にて……。
「な、なぁ。警察に本当のこと言ったらどうかな……」
容疑者となったクオンが、仲間の二人――ケン(ブラジル人)とアリ(イラン人)に、思い詰めた顔を向けていた。
※実際の彼らの会話は英語です。
「ここにいれば見つからないから、大丈夫だよ。それに、困ったことはダディがなんとかしてくれるだろ?」
ケンが優しくクオンの肩をつかむ。が、クオンの顔は浮かない。
「そんなことない……。僕、なんで日本で犯罪なんかしてるんだ? ダディに助けてもらってから、僕……なんでこんなことにっっっ!」
クオンは泣きじゃくりだした。愛していた彼女の名前を叫びながら。
「たしかにな。日本で困ってた俺らをダディは助けてくれたけど……、甘いマスクを被ったバケモノだよ」
アリが薄暗い倉庫の天井を睨み付ける。
「や、やっぱり、そうなのか? おらはダディに助けられてるし、ダディの手伝いをしたいと思ってるんだけど……」
ケンがオドオドとアリに尋ねる。
「いいように使われるだけだ。いずれ、クオンと同じような目に合うぞ?」
アリは、まだ泣き止まないクオンを、眉をひそめて見やる。
「そ、そんな……。
あ、そうだ! 昼間会ったやつ。あいつに相談したらどうだ?」
「信じられんな。それに、信じたとこで、あいつは役に立たなそうだ。
見ず知らずの俺らに急にあんなこと言うなんて、ダディみたいな黒いやつか、正義のヒーロー気取りの頭お花畑のアホだな」
そんなことを言われてるとも、青城はつゆ知らず……。
「ぼ、僕が助けてやるぞ……むにゃむにゃ……」
と、正義のヒーローをやってる幸せな夢を見るのだった。
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