キレイな花には……

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キレイな花には……

 翌日。今日は休日の青城は、また正午前くらいにバー・カリフォルニアに向かった。  今日も昨日と同じく、清々しい五月晴れで、鳥も嬉しそうにせえずっている。 「こんにちは!」  ウキウキしながら、青城は店に入った。  が――、返答はなく。シーンとしている。 「…………あ、花か」  しばらく入口で突っ立っていた青城は、それに気づくと、外に出た。 ((昨日横から声かけられたよな……))  店の横を見に行くと、花に彩られた通路があり、奥へと続いている。 ((店主はあの奥かな?))  断りもなく入るのは気が引けた青城は、唾を飲みこむと、そろりと通路に足を進めだした。 「わぁ。キレイ……」  奥まで来た青城は思わず声をもらす。  店裏の開けた空間には、白い花がついた樹木やピンクに染まった生け垣や風に揺れる可憐な花などなど――花で埋め尽くされていたのだ。 「おや、今日も食べてくかい?」  しゃがんで作業していた店主は、青城の声に気づいて、腰をトントンしながら立ち上がった。 「花、キレイですねぇ」  青城は店主へと近づく。  と――、店主の側に群生している花が青城を魅了した。鮮やかな紅色の花々が。 「欲しいかい?」 「へ?」  ボーッと花に眺め入っていた青城は、ふいに問われ、気の抜けた声を出した。  そんな青城を見て店主は笑うとしゃがみ、園芸用スコップを地面に差し込み――根っこから掘り起こして数本青城に差し出した! 「え、え?」 「持ってけ」  戸惑う青城……。 「あ、袋入れとかな、持ってけにゃぁわな」  アハハハと店主は、物置小屋に向かい、そこからビニール袋を取り出して、花(根っこつき)を入れて青城の前に掲げた……。 「ほれ。持ってきゃぁ」 「あ、ありがとうございます」  店主のアツに押されて、青城は袋を手にする。 「で、食ってくか?」 「うーん。とりあえず、花をすぐ植えに帰ります」 「ほうかい。しっかり育てて増やしてちょーよ」 「はいっ」  帰るべく歩き出していた青城は、立ち止まり店主に会釈をした。  店主はそれに笑顔で手を振り応える。  青城も笑顔で再び歩き出して、今度は止まらず、横目でチラリと店主を見る。  が、そのとき、店主の目は冷たく光っていた――ような気が青城はしたが、気のせいだと流した。 ((花を愛でる店主は良い人だ。外国の人にも優しいしっ。  花、ばぁちゃん喜ぶかな)) 「うふふっ」  家路を歩きながら声がもれる。  突如発せられた奇妙な声に、ちょうどすれ違った若い女性がヒッとおののき、足早に通りすぎていった。  そんなことには、脳内絶賛お花畑中の青城は気づかない。  良い人がいる――外国の人にも花にも優しい人がいる、ことが嬉しくて仕方ないのだった。  そして―― 「た、たつひろ……。お、おみゃぁ……。こ、これは……!」  家に帰って花を見せると、祖母は呼吸困難になろうかというぐらいに興奮した。  だが――、 「ばぁちゃん、落ち着いて。そんなに喜んでくれなくて――も……?」  祖母は、花をボキボキ折りだし――、その残骸は袋の中に落ち――、その袋を固く結んで、ゴミ袋(市指定の燃えるゴミ袋)へと収納した……。 「ば、ばぁちゃん?」  祖母の迅速な行動に、ポカンとする孫。 「ど、どこでこんなもん拾ってきた?」 「え? もらった――」 「早く処分するように言ってきんしゃい!」 「え? え? ばぁちゃん、ね、どういうこと?」 「これは――、麻薬だがね!」 「え……マヤク?」  マヤクと聞いて、警官の青城は血の気が一気に失せ、鼻息が荒い祖母を見つめる。 「そう。これは、栽培禁止の花!」 「ま、まじ……? ぼ、僕、いってくるっ」  青城は家を飛び出し、バー・カリフォルニアへと急いだ。  あんなに良い人が、つい間違って栽培しているなら、教えてあげなくちゃと。 「あ!」 「あ……」  バー・カリフォルニアの手前で、青城は昨日の男たちと出会った。  男たち――ケンとアリは、青城とまた出会うなんて、複雑だ。 「もう一人は?」  容疑者似の男性がいないことに気づいた青城が、ためらうことなく英語で問う。 「あんたに関係ないだろ」  アリはむすりとして立ち去ろうとする。  が――、ケンが袖を引っ張る。 「ね、相談してみたらどうかな」 「おい、しても意味ねぇって、言っただろ?」 「あ、あの。僕はいつでも相談のるよ」  青城が笑顔をつくるが、アリは「チェッ」と苛立つ。 「俺はもうだまされるのはごめんだ」  行くぞと、アリは足早に歩きだす。  ケンは、青城をちらちら見つつ、アリについていった……。 ((あんなこと言われたら、気になるだろ……))  青城の足は、バー・カリフォルニアへと行かず、彼らの後をつけ始めた。  そして、その青城をつけるもう二人の影が――。
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