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眠ってしまった彼の寝息を確かめて、そっと起き上がる。
家に帰るにも、もう電車は動いていない。このまま彼の家に泊まるしかない。
少し喉が乾いた。水をもらおう、と足を床に下ろす。
突然、手首を強くつかまれた。予想していなかったことに驚いて、彼を振り向く。静かに眠りに落ちてると思っていたのに、大きな目は丸く開かれ、俺をじっと見つめている。
手首をつかんだその手は、力を込めすぎて震えている。
「すんません、起こしちゃいました?」
尋ねても、彼は黙ったまま更に手に力を入れる。
「いて…どうしたんすか」
僅かな間があって、やっと彼の唇が動く。
「どこ行くんだよ」
「水、飲んでいいすか?」
彼らしく、シンプルでモダンなベッドルーム。そのドアの向こうには、同じく、俺には考えられないようなオシャレなリビング。そこへ行けばウォーターサーバーがある。さっきまで、そこで一緒に呑んでいた。
「帰らない?」
「帰れませんよ、もう」
今日は、そんな予定じゃなかった。
一目惚れした、明るくて人あたりのいい彼と、念願の食事に行った。それだけのはずだった。
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