【短編】A night in a puzzle

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 それがわかっていて、どうして手を出してしまったんだろう。彼がそれを望んだとしても、俺は拒むべきだったんじゃないだろうか。 「はい、ちゃんとぎゅーって抱きしめて」  拒むべきなのに、彼からの指示はどうしても断れない。彼の背中に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめる。  女性と違って柔らかさはないし、骨の太さも感じるし、直接筋肉に触れてるって手触りがする。俺の腰に触れる彼の腰骨も硬く感じるし、何の障害もなく平面で触れる胸は不思議な感覚だ。  だけど、それは嫌悪するような物ではなくて、それも含めて彼だ。 「うん、よし」  くすくす笑う彼は楽しそうだ。  彼は、罪悪感はないのだろうか。恋人を裏切ってる、この状況をどう思っているのだろうか。  俺に出されたスリッパも、グラスも、バスタオルも彼の恋人のもの。何の躊躇いもなく、そう言いながら出してくれた。  そんなつもりじゃなかった。  俺は、彼にそんな裏切りをさせる程の男じゃない。  それに、彼にもし恋人がいなかったとしても、その日のうちにこんな風になってしまうことは望んでいなかった。  俺は、彼よりずっと格下で、自分自身に誇れるものなんかない。
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