3.進展がありそうでして

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「なんでそらすの」 「いや、そらさない方がおかしいのではないでしょうか」 思わず敬語になってしまったけどそれは良しとして。 まだ至近距離から感じる視線と、ほのかに香ってくるシトラスの香りに動悸が激しくなる。 なにこれ、なんか、すごく心臓痛い…。 「帰らないの…?」 顔も見れないし、何だか居たたまれなくて、歩くことを促した。 一瞬空気が揺れた気がしたけれど、すぐに谷崎くんが離れる。 「送る。」 一言呟いて、でも手は繋いだままで、また歩き出した。 家の前に着くと、離れていく掌の熱。 …なんかちょっと寂しいような……。い、いや、違う。そうじゃない違うそんな乙女みたいな思考になるのは変だ…! 谷崎くんを見上げて、「送ってくれてありがとう」と伝えると、「ん。」と短い返事が来る。 この短さが変に心地いいのは本当に謎。 「あ、そういえば、今後はこういうの控えてもらいたいんですけど…」 そうだ。本日の重要な伝達事項を思い出した。 送ってもらうこと自体はとてもありがたいこと。けれどわざわざ学校から電車で来て送って帰っては申し訳ないし、さっき同様なんでするのかわからない。 並んで歩くと目立つから嫌って気持ちもあるんですけどね…。 そう思いつつの申し出だったんだけど。 「なんで」 はい、出ましたよなんでって聞いてくるやつーーーー!!! 何回も言ったよね?!言ってたよね私!!夢じゃないよね?!!! 思わずムッとしてしまって谷崎くんを見る。 「何回も言ってるじゃん!!困るの!谷崎くんみたいなイケメンが隣にいると気が気じゃないのっ!!」 勢いに任せて早口になりながらも言葉にする。 言い終えて、わかった?!と目で伝えると、少し目を見開いて驚いたような表情を見せた谷崎くん。 これは今度こそ伝わったか…? 数秒の沈黙の後に谷崎くんが口を開いた。 「……わかった」 聞こえた一言に、ほっと胸を撫でおろす。 良かったぁぁぁ!やっと伝わった…!!! その安堵の瞬間にスッと影が落ちて。 むにっと口に何か柔らかいものが当たって、え?と思った時には目の前は谷崎くんで埋まっていた。 …今、なにしてる………??……?!! 今の行為に気付いてとっさに体を引こうとした。 その行動を予測したのか反射なのか、腕を引かれてそのままギュッと捕まってしまった。
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