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「…え」
突然の爆弾投下に、出ていた涙も引っ込んだ。
…待って、今、この人何言った………???好き?すき…??
ジッと見つめてくる瞳に少し体温が上がる。
「だ、誰が…?」
「俺が」
「誰を…?」
「この人」
トントン。と頭を軽く叩かれた。
いや、いや、いやいやいやいや……嘘だ。
会ってから数日でそんな好きとか、なるわけない…!
「冗談言わないで」
「本気だけど」
「~何で…っ!!!」
ビーーーーーーッ
言葉を遮るように少し遠くから聞こえたブザー音。
時計を見ると試合開始時刻になってしまっていた。
「凜ちゃんの試合始まっちゃう…!」
まずい!と立ち上がろうとして足に力が入らないことを忘れていた為、カクンと膝をついて座り込んでしまう。
早くいかないといけないのに!!
ジッとこちらを見ていた谷崎くんは、何を思ったのかするりと私の膝裏と背中に腕を差し込んで、
「え?ちょっ!!」
「あんま動かないで、落としそう」
そのまま私を持ち上げて立ち上がった。
こ、これは、お姫様抱っこ…?!
ふう、なんて涼しい顔の谷崎くん。しかしこちらは落ち着くわけがない。
「降ろして!歩いていくから!!」
「腰抜けてるでしょ」
「そ…う、だけど、重いでしょ!あと恥ずかしいから…!!」
「軽いし人があんま通らないところ行くから」
全論破とすでに歩き出してしまった谷崎くんを止める術は思いつかず。
目の前にあるイケメンフェイスを極力見ないようにするしかできなかった。
「あそこ、凜の姉貴いるとこ。あってる?」
「あ。うん、合ってる」
「ん」
ものの数分で元居た観客席付近に到着した。
…私どんだけ迷ってたの。
自分の方向音痴の重症さに、頭を抱えそうになる。
席まで抱っこしたまま行きそうになった谷崎くんに後生だから本当に近くまででとお願いし倒してすぐ傍で人影がないところに降ろしてもらった。
足腰も流石にもう自分で歩けるくらい回復していて本当に良かった。
「じ、じゃあ…送ってくれてありがとうございました…」
そう告げて、席に向かおうとしてまた腕を掴まれる。
見上げると少し気難しそうな顔の谷崎くんが、うっすら口を開いて言う。
「本気だから」
「っ」
一瞬揺れた瞳が私の目をはっきり捉える。
さっきの告白のことだろうとしっかりわかってる。わかってはいるけれど…
容姿端麗、おまけにスポーツマン。ここの偏差値も低くはなかったはずだから勉強もできるのだろう。
そんな谷崎くんが私なんかに本気になるなんて、少女漫画でもありえないと思う。
そう考えて、何も言えなくなる。
少しの沈黙の間に、ブザーが聞こえてふと視線をそちらに逸らした。
「凜よりも」
「え?」
凜ちゃん…?
突然出てきた名前に再び目線を戻す
「凜よりも、俺のこと見て」
一瞬影が落ちて、チュッという音とおでこに触れた柔らかい感触。
それが何かを脳が理解する前に、「でもさっきはごめん」と言い残して谷崎くんは去って行った。
「……っ?」
顔に熱が集まっていく。これでもかってくらい、熱く。
早く試合を見に戻らないといけないのに、
何でこんなに早く、胸の中心が脈を打つのだろう
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