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5.一歩進んで
「あのさぁ、唯?」
「…はい」
「あたしの方にも連絡きてるんだけど、説明してくれる?」
「うぅ……。」
先日の大会から数週を跨いで今日。
大学終わりの放課後に、美由紀にファーストフード店に連れ出されての尋問。
わかってる…何のことかなんて私が一番わかっている……!
と、いうのも数週間前のあの大会の日以降、時々谷崎くんから連絡が来たり、放課後一緒に帰りたいとお誘いがあったのだけれど…、どうしても迷子になっていたあの時のことが頭を離れず、谷崎くんの顔を一目見ようものなら顔が真っ赤になる気がして、忙しいやら何やら理由をつけにつけまくって断っていた。
送られてくる他愛もない様なメッセージにもあんまり返信できていないまま数週間が経って、ついに凜ちゃん経由で美由紀に探りが入ったという。
「最近はイベントもないし?授業も比較的穏やか、学校イベントもない。」
「う」
「それで何が忙しくて避けてるのかしら?」
「うう…美由紀にチクるのはずるいぃぃ」
何言ってんのよ。とデコピンされる。
注文したカフェラテを啜りながら、美由紀はまったく…と呆れ顔。
「だってぇ……」
「何よ。この際何考えてるのか、白状しなさい。」
う…こうなったら逆らえない。
逆らおうものなら私の部屋にある秘蔵同人誌を持ち出されてしまう…!
それに加えて正直、自分でもこのままは宜しくないと、ひっそり隠れていた良心がチクチク胸を刺してくる。
「…谷崎くんに、大会の時好きって言われて」
「え、マジ?!それでそれで??!」
おう…食いつきがすごいよ美由紀さん……。
「その後ちょっと色々あって、顔が合わせずらいというか……」
「へぇーー??彼、そんなに熱量あると思えなかったけど、告白してるとは思わなかった」
まあ…普段のあの無表情を見てたらそりゃあね……。
美由紀はにこにこしながら「もっと詳しく聞きたいところだけど」と、持っていたカップを机に置いた。
「それ、単純に谷崎くんのこと気になってるだけじゃない?」
「・・・え。」
気になっている…??
フリーズした私をよそに美由紀は続ける。
「告白されて、異性として気になり始めてるってことでしょ?いいことじゃない。」
「え、いや、そんなこと……」
「というか?アプローチしてくれた彼に今、だいぶ失礼な態度取ってるのはもちろん、わかっているわね?」
「それはっ、わかってるけど……でも、谷崎くんみたいにイケメンの塊が私のこと好きって言われても、ぴんとこないし…。」
そこまで言って、ストローに口をつける。
そうだよ…、たまたま変な出会い方だったから何となく、とかかもしれないし、上げて落とされるのはつらい。
そんな考えをしている内に段々と眉が下がる。
美由紀はふぅん?と言ってスマホを少し触ったかと思うと、今度は満面の笑みをこちらに向ける。
「ま、何だかんだ言ったけど、唯が納得する答えはきっとすぐ出るわよ。」
「んぇ…?」
どういうこと…?
そう聞く前に荷物を片付けだす美由紀。
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