1.出会いまして

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1.出会いまして

「っだぁぁぁぁ描けない!!!!」 『うわっ!急に大きい声出さないでよ!!』 だってぇーーー!とイヤホンの向こうの友人に泣きつく。 「難しすぎない?!!体育館って!!!パースえぐくない?!!」 『アンタがはまっていくジャンルと作品がスポーツ系ばっかだからでしょうが!!』 「美由紀助けてぇアシスタントしてぇぇぇ!!」 通話中の友人こと笹野美由紀(ささのみゆき)に、あたしだって忙しいんだから無理に決まってんでしょ!!!と怒られるのは私、坂口唯(さかぐちゆい)。 時刻は深夜3時。絶賛同人誌の追い込み中。 『あれほどスケジュールは考えろって言ったでしょうが!!』 「考えたもん!!気付いたら締め切り三日前だっただけ!!!」 『それは考えてないってことでしょうが!!!』 ぎゃあぎゃあと、言いあいながらも動かす手は止められない。 今度ある同人誌の即売会イベントに出るべく、私は漫画を描いている。 ジャンルは夢。ゲームやアニメの世界に自分を置き、キャラクターと恋したり冒険したりな物語を作るのだ。 私が書いているのは少年漫画の二次創作で、推しキャラとの恋愛ストーリーを描いている。…のだが 今回手を出したのはバスケもので、試合や練習風景に描く背景の体育館が描き込めずにいた。 「キャラは描けてるのに…背景が、背景がぁ……」 『ったくもー。もっと早めに資料集めておきなさいよ!』 「うう…正論ぶつけないで…メンタルブレイクするぅ…」 美由紀はというとコスプレイヤーで、今は通話をしながら衣装を作っている。 イベントでは同じスペースで売り子をしてもらう予定でいる。 「どうしよ…明日大学の体育館でも行ってこようかな……」 ううう、あそこは陽キャがいっぱいいるから行きたくない…。 学校や必要最低限しか外に出ない万年引きこもりの私にはハードルが高すぎる。しかも写真に収めなければいけないところが余計にハードルを上げてくるのだ。 私みたいのが写真なんか撮ってたら完全不審者扱い受けるでしょ…!! 頭を抱える私にはぁ。とため息をつく美由紀。 『じゃあ、あたしと一緒に行く?』 「え…?どこに?」 『明日、弟の高校で練習試合があんのよ。何高校か集まっての大きめの試合するらしいから参考になるんじゃないの?』 「え?!凛ちゃんの?!」 凛ちゃんとは美由紀の弟。 昔からの付き合いで、男の子だけど凜ちゃんと呼んでいる。 まさに神の思し召し…!!!! 「美由紀さま!!!連れて行ってくださいぃ!!」 『はいはい。じゃ、今日はやるとこまでやってさっさと寝なよ。明日お昼前には着いてないといけないから』 「ありがとおおおお!!!!」 うるさい。と一蹴されたけれど、そんなのは気にならない。 流石大学の同学年随一のクールビューティーと称される美由紀さまだ。 「ほんっとにありがと!今度何かおごらせて!!!」 『はいはい、お気遣いなく。じゃあ明日、駅に10時ね』 「うん!!わかった!じゃあお休みなさい!!」 『おやすみ』 通話を切って、パソコンの電源を落とす。 デジカメがあるから充電しておいて、モバイルバッテリーも持っておこう…!! 睡眠時間もあまりないので急いで今できるだけの準備を済ませた。 「よし…!明日はしっかり撮ってくるぞー!!」
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