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ただ字を眺めているだけの読書にけりをつけて立ち上がる。彼女が背もたれの無くなったことへの不満を表現するためわざとらしく転がる。
寒い寒いと僕の背中をカイロ代わりに使っていたけどたぶんもうそんなに必要としてないだろう。背中に冷房機能をつけるのはちょっと難しい。
空き缶に水を入れ申し訳程度だけあるベランダに出て、朝あげ忘れたプランターの枝豆の芽を濡らす。少し前に彼女が自給自足だと買ってきたけどもっぱら世話は僕がしている。
よく見ると一つだけもう花を咲かせている。枝豆にも花言葉はあるんだろうか。もしあるならジャガイモやアボカドにもあるのかもしれない。アボカドが花を咲かすのか知らんけど。
それにしても他がやっと芽を出したところだというのにあわてんぼうが過ぎる。
花が咲いたら実りの時もそう遠くない。彼女がそれを一緒に食べる相手は僕だろうか。
このままダラダラ過ごしていれば自然とそうなるかもしれないが、ダラダラ過ごすにしても自分で選ぶべきだろう。
それに彼女の方がこの生活に飽きるかもしれないし、あるいはもっと逃れられない状況が僕にやってくるということもある。
そうなると僕は枝豆を食べられないけれど、でもだからといって水をあげない理由はない。あのとき枝豆を育てていたという何気ない思い出だって酒のあてくらいにはなる。
甘ければいいし、たとえ塩辛くてもビールにはよく合うことだろう。
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