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「あいつら...」
「えっ!?ど、どうして泰地が千麻なんかと...!」
朝、いつものように晴紀と弥生のいる部屋へと向かっていた。
同じ時間、同じ風景。そこまでは何ら変わりはなかった。しかし弥生の部屋の階についた時、日常は非日常へと変貌しているのだ、ということに気づかされた。
千麻の手を引いて歩く泰地。それは信じられない光景だった。
泰地が千麻のことを恨みはしても距離を縮めるなんてこと、するはずないと思っていたからだ。
弥生に近づく千麻を恨んでいたのではなかったのか。
ありえない現実。しかし目の前で起こっている光景は嘘偽りのないもので。
「...っ」
「...和史?」
ギリリ、と歯を食いしばれば、晴紀が窺うようにして声をかけてきた。
そこでハッとした俺は歯ぎしりをやめ、止めていた足を前に踏み出させた。
― なんで俺がこんなにイラつかなきゃなんねぇんだ。
下の階へと下がっていったのか、すでに見えなくなった千麻の背中の影を目で追う。
千麻は...千麻は弟の復讐をするためにこの学校へ来たのではないのか。
泰地と晴紀の2人とヤッたことは覚えていて、よほど精神的負担が大きかったのかどうかは知らないが、俺のことを全く覚えていなかった千麻。
俺が泰地達と犯したことを覚えているか聞いたときもあいつは“あの時のことは忘れたい”そのようなことを言っていた。
だが、あいつが本当にそんなことを思うはずがないんだ。裏で何を考えているのか分かったもんじゃない。
だから俺を覚えていないと言われて好都合だと思っていた。俺が黙って見てるだけで、きっと千麻は泰地と晴紀を排除して俺は弥生と2人きりになれると思ったから。
そして事実、千麻がここにきて1カ月もしないうちに泰地は排除された。
そう、たしかに弥生の前から立ち去ったのだ。俺が望んでいたように。
それなのに...
歓喜し、微笑するはずの香月はイラつき、顔を歪めていた。
― 気にくわねぇ...
その怒りの矛先は泰地だった。
憎まれているはずの泰地は俺が知らない間にあれほど千麻と距離を縮めていた。
― 何故だ。何故千麻の隣に泰地がいるんだ。
突如湧きあがる怒りは考えれば考えるほど高まっていく。何故ここまでイラつくのかが自分自身でも分からなかった。
― ガンッ...!
「ひっ...!か、和史、どうしたの...急に...ビックリさせないでよ」
怒りのまま壁を殴れば、晴紀が肩をビクつかせてこちらを見てきた。
「先、行ってろ」
「えっ...う、うん。」
おさまらない怒り。晴紀にそれだけ伝えると、香月は背を向け来た道を戻っていった。
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