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放課後、綾西の部屋にて。愛都は綾西の足の間に入り、ソファに座っていた。
綾西は愛都の首や肩口に顔を埋めては匂いを嗅いではしつこくそこにキスをしてきていた。
強く強請られ、しかたがなくこんな体勢になってやったが、何とも煩わしい。
しかしこいつの行動一つ一つに注意をしていたらきりがないため、それらを無視して意識を別の方へと向けた。
― そろそろ見学旅行の季節か...
帰りのHRで担任がそんなことを言っていたな、と思い出す。
同じクラスの男子生徒達は和気藹々と騒いでいたが、愛都からすれば面倒臭いことこの上ない。
一体、何を楽しめと言うんだ。ただでさえ、時間が無いのにこんなくだらない行事ごとで時間を潰されてしまうのだ。
だが、確かこの学校はそういった行事ごとは大体が強制的に参加させられていた。
家柄など身分は関係なく、だ。
―あぁ、嫌だ。気に食わない。
唯一ここに来て、学校のことで不便だと思ったのはこういった行事ごとだった。
きっと叶江に言ったって、あいつは面白がって俺の不参加を認めたりはしないだろう。
そんな嫌な考えが頭を廻る。
「何、考えてんの」
「さぁ、なんだろうな」
「俺以外のこと?」
「当たり前だろ」
白い天井を眺めながらそう答えれば、綾西はムッとしたのか強くうなじに吸いついてきた。
まるで、構ってとでも言っているかのようなその行動さえも無視して、愛都は天井を見続け思考を戻す。
すると急に綾西は愛都のそばから離れ、ソファを降りる。
目の前まで来るとしゃがみ込み、ガチャガチャと愛都のベルトに手を掛けてきた。
そうして下着の中へと手を入れてこようとした時、愛都は舌打ちをしてその手を掴んだ。
必然的に意識は綾西に奪われ、俺は不快気に眉間にしわを寄せた。
対する綾西は愛都の注意を引きつけたことがよっぽど嬉しかったのか、目を細め口角を上げて笑んでいた。
「調子に乗るな、」
「ぅぐっ...」
苛立ちのまま綾西の肩を蹴れば、上がる呻き声。
「愛都、愛都....俺のこと、見てくれてる...」
だが、綾西の顔から笑みが消えることはなかった。
― 人を飼うというのも大変なものだな、
綾西の部屋を出た愛都は1人、自分の寮部屋へと向かう。
強く吸われたうなじがジンジンと疼き、それを抑えるかのようにして手で軽くさすった。
元々、叶江へのあてつけのために綾西を傍に置くことにしたが、肝心の叶江は今日学校に来ておらず綾西との仲を見せつけることもできないでいた。
それにしても....
―本当、綾西は従順なようで従順ではない。
確かに命令は聞く。それはもう、犬のように。だが、いかんせんあいつは人一倍執着欲が強い。
そのせいか稀に、愛都の命令よりも自分の独占欲を優先させる場合があるのだ。
―あいつは未だに自分の立場というものをちゃんと理解していないのだろうか。
しかし綾西を躾けるために割く時間など俺には存在しない。残された時間も長くはない。
近づく夏の季節。1年のうちの半分を跨ごうといているのだ。
今は既に堕ちた綾西よりも別の人間に標的を変えることを優先しなければいけない。
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「あれ、誰かと思えば...。こんな時間に合うなんて奇遇だね———— 香月君。」
愛都は目線の先にいる香月へふわり、とした笑みを向ける。
偶然居合わせた香月は愛都と同様、着替えを済ませておらず制服を着たままだった。
「千麻...はっ、ちょうどいいところで会った。ちょっと、来いよ」
「えっ、香月君!?どこに行くんだよ、」
「いいから黙ってついてこい。こっちは朝からずっと苛々してんだ。...だから、お前でそれを晴らす」
腕を掴まれ連れて行かれた場所は人気の少ない非常階段の入り口。
寮の各階の隅にあるそこは普段人は近づきはしないものの、全く人気が無い、というわけでもない場所だった。
「俺で苛々を晴らすって....ぅあっ...ぐっ!」
壁に強く押しつけられ、ひやり、とした冷たさが頬と手の平、そして胸に伝わる。
「お前を俺の性欲処理に使うってことだよ」
「え!?な、なんで俺が...!」
あっという間にベルトは外され、チャックも下ろされる。そうすれば、ストン、と制服のズボンは足首まで下がる。
「お前が悪いんだ...お前が...」
背中から伝わる熱い体温。耳にかかる荒い息。
正直、ここで犯られるというのは予想外。
だが、香月に犯られるというのは....予定通り。
こいつは綾西のように精神は脆くない。孤独さえも苦に思わないような奴だ。
そんな男をどうすればいいのか...答えは簡単だ。
― 肉欲に溺れさせればいい。
俺の体に気が狂うほど溺れてしまえ。それはまさに中毒者のように。
そのためならいくらでも体を差し出そう。嫌がる素振りを見せて、興奮させてやる事だって苦じゃない。
お前が俺の体に溺れさせるための演技などいくらでもしてやる。
だけど楽しめるのは今のうちだけだ。
愛都の後姿を見つめる香月。
だから気がつくことはなかっただろう。
愛都の口元に浮かぶ、歪んだ笑みを。
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