呪縛

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呪縛

「あんたたち、またここに来たのかい?」 区長の松元が、西山野駅跡地で、小さな猫の墓の前に立っている三人に話しかけた。 「ええ、探し物をしているんです」 泉が振り向いた。 「探し物?何か落としたのかい?」 区長の松元が歩み寄って来た。 「そうですね、落とし物と言えば落とし物かもしれません」 泉がにこやかに言葉を返す。 次女の小百合もさることながら、泉もかなり整った顔立ちをしている。 その泉の美しい笑顔の端に、冷静な表情が見て取れた。 「じゃあ、儂もいっしょに探してあげよう」 「ありがとうだヨ」 にっこり笑う和香。 「松元さんは、ここに道路が通ると、猫ちゃんの小さなお墓が埋まっちゃうから、測量会社の人たちに止めるように言ったんでしょう?」 「でも、おじさんタチに無視されテ、松元さんめっちゃ怒ったんだヨネ?」 泉と和香が諭すように言った。 松元の顔から愛想のよい表情が消える。 「そうだ。正直にいうとな、俺はあいつらと会ってたんだ。1回目に来た奴らは猫の墓を踏みやがったから怒鳴ったらすぐにいなくなった。2回目に来た奴らはまあまあキチンとした仕事をする奴らだったが、道路を作るなら駅跡地とこの猫の墓を避けて設計してくれって言うのに、ぜんぜん聞く耳を持たないんだ。その上、ホームの上で弁当喰って居眠りを始めたんだよ。だから我慢できなくて怒鳴ってやったんだ。そうしたら俺が怖くなったのか、すぐにいなくなった」 「それで落ちたわけね」 「落ちた?何が?」 「なるほどデス」 「区長さんの負のエネルギーが強かったために、空間に歪が入り、測量会社の方々は別な空間に落ちてしまったんです」 「空間?歪み?なんだそれは?しかも儂がやったというのか?人を化け物みたいに言って———」 「あのネ、測量のおじさんたちは松元さんを無視してたんじゃないヨ。あの人たちには松元さんが見えナイし、松元さんの言ってるコトは聞こえないんだヨ」 「えーと、松元さんは、良くここに来るのですか?」 腕組みをして泉は訊いた。 「そうだな、毎日というわけではないが、ここには良く来るよ」 「亡くなってからもですか?」 「誰がだい?」 「貴方がですよ、松元さん」 「意味がわからん」 松元は目を丸くした。 「うちの課長に報告したのです。現場に行ったら区長の松元さんに会いましたと。そうしたら、なんて言われたと思います?」 小百合が二人の横から言葉を入れた。 「?」 「松元さんは三か月前に亡くなったって言われましたわ」 「何を莫迦な事を。現に儂はこうしてここにいるじゃないか。誰だねその課長というのは。()しからんやつだ」 「猫ちゃんが死んでから、ときどきお墓に花を添えに来てたんだっテネ」 和香が松元の顔を見る。 「そして三か月前、お墓に花を供えに来たあなたは、心筋梗塞を起こしてここで亡くなっていた」 泉が笑顔を解き、まっすぐに松元を見ながら言った。 「全く、君たちは何を言ってるんだ?儂をからかっているのか?」 「松元さんは良くここに来るのではなくて、いつもここにいるんですよ」 「何故ナラ」 「何故なら?」 「貴方は死んで、ここで地縛霊となっているからです。松元さん」 「地縛霊だと?今度は人のことを幽霊とでもいうのか。だ、だいたい、君たちは儂と話をしているんではないか」 「私たち三姉妹は、祓い屋ですよ。ヒトに見えないものが見える」 「そんな、違う、ちがう———」 松元の顔が歪み始めた。 両手で顔を押さえる オオオオオオオオオ——— 松元の叫びとも、空間の共鳴ともつかない音が空気を震えさせた。 周辺の木々にとまっていた鳥たちが、一斉にバサバサと飛び立った
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