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「ちょっと、こっち」
「え?」
俺は辺りに誰もいないことを確認すると、部室のドアを開いて歩美を誘導した。
鍵は、あえて閉めない。そんなことしたら、もし最悪誰かに見つかったとき、言い訳が効かないから。
よし、大丈夫。
俺は今、至極冷静だ。
「なんだっけ、お前の取り合い? 言っとくけどな……俺は取り合いなんて、いたしません」
目の前で、しゅんと項垂れる歩美。
俺はその顔を覗き込むように身を屈めて、今までで一番、俺たちの距離を縮めた。
驚いて目を丸くした歩美の薄い唇に、自分の唇を微かに触れ合わせる。
一秒にも満たない、ほんの一瞬。
体温も、吐息も、柔らかさも。
何もかも感じられない、マスク越しのキス。
だけど……俺の身体は今、燃えるほど熱い。
「俺だってコレが限界なのに、他の誰かになんか絶対触らせるかよ。俺が離さないっつってんだから、そもそも取り合いなんてならねーの! わかったか、歩美!」
冷静?
どの口が言ってんだ。
好きな女を前にしたら、俺の方があいつらよりよっぽどガキじゃねーか。
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