取り合いなんて、いたしません。

2/5

117人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「やだ……聞いてたんですか? 尚人(なおと)さん」 「こら、学校では設楽(したら)」 「設楽監督。趣味悪いですよ、盗み聞きなんて」 「偶然だ、偶然! ったく……どいつもこいつも、部室の近くで告るの止めろっつーに」  俺がぼやくと、歩美はおかしそうにアハハ!と声をあげて笑った。 「大丈夫、ちゃんと断りましたよ。付き合ってる人がいるから、って」  いや、笑い事じゃ……ねぇんだけど。  羽柴(はしば)歩美(あゆみ)は、この学校の三年生で、俺が監督を務める野球部のマネージャーだ。   母校の野球部の監督になって、今年で三年目。  まさか、自分が十も歳下の生徒と禁断の……ンンッ!になるとは、思いもしなかった。  どういうわけか、猛アタックされて。  そしてどういうわけか、まんまと惚れてしまった。  我ながら、なんてチョロい男だと思う。  こんなことが周りに知れたら、大問題だ。  俺のクビだけじゃ済まない。それこそ、野球部の活動にも、歩美の進路にも影響する。  だから。  俺はまだ、歩美に指一本たりとも触れていない。 『どうしても!』と押し切られて形の上では“彼女”ということになってるけど……手を繋ぐことも、頭を撫でることすらも、ただの一度も。  せめて、歩美が高校(ここ)を卒業するまでは。  己の理性にビシバシと鞭打って、俺はこの数ヵ月、ドMなまでに自制を貫いてきた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加