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「やだ……聞いてたんですか? 尚人さん」
「こら、学校では設楽監督」
「設楽監督。趣味悪いですよ、盗み聞きなんて」
「偶然だ、偶然! ったく……どいつもこいつも、部室の近くで告るの止めろっつーに」
俺がぼやくと、歩美はおかしそうにアハハ!と声をあげて笑った。
「大丈夫、ちゃんと断りましたよ。付き合ってる人がいるから、って」
いや、笑い事じゃ……ねぇんだけど。
羽柴歩美は、この学校の三年生で、俺が監督を務める野球部のマネージャーだ。
母校の野球部の監督になって、今年で三年目。
まさか、自分が十も歳下の生徒と禁断の……ンンッ!になるとは、思いもしなかった。
どういうわけか、猛アタックされて。
そしてどういうわけか、まんまと惚れてしまった。
我ながら、なんてチョロい男だと思う。
こんなことが周りに知れたら、大問題だ。
俺のクビだけじゃ済まない。それこそ、野球部の活動にも、歩美の進路にも影響する。
だから。
俺はまだ、歩美に指一本たりとも触れていない。
『どうしても!』と押し切られて形の上では“彼女”ということになってるけど……手を繋ぐことも、頭を撫でることすらも、ただの一度も。
せめて、歩美が高校を卒業するまでは。
己の理性にビシバシと鞭打って、俺はこの数ヵ月、ドMなまでに自制を貫いてきた。
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