取り合いなんて、いたしません。

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「いやぁ、それにしてもモテるのな。羽柴サンは」  俺のわざとらしい言い方が気に障ったのか、歩美はムッとした顔で唇を尖らせた。 「……少しもヤキモチ焼いてくれたりしないんですね。設楽カントクは」  明るくて、気立てが良くて、飾らない性格。  それに加えて、美人で、スタイルが良くて、ついでに胸も……ンンッ!  事実、歩美は本当にモテる。  俺が目撃した三回以外にも、きっと何度もこうやって告白されているんだろう。  ヤキモチ?   そんなもん、焼き餅屋をチェーン展開できるくらい、焼きまくりだっつのッ!  部員(あいつ)らみたいに、自分の気持ちを包み隠さずオープンに伝えることができたら、どんなにいいか。  だけど……仕方ないだろ。 「――だって俺、オトナですから?」  大人には……色々あるんだよ。  まぁ、女子高生(こいつ)に惚れた時点で、大人としても指導者としても失格だけどな。 「オトナとかそんなの、関係ないし……。 もし……もしも『彼氏から奪ってやる!』っていう強引な人が現れたとしても、きっと監督は、私を取り合ってはくれないんでしょうねっ」  例えばの話ですけど! と、いじけたようにそっぽを向く歩美。  一瞬、その背中を後ろから抱きしめそうになって、(すんで)のところで踏みとどまった。
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