取り合いなんて、いたしません。

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「――歩美ちゃん! 俺、歩美ちゃんのことが……」      グラウンドのベンチにジャージの上を忘れてきたことに気づき、仕方なしに取りに戻った、その帰りだった。  野球部の部室脇から聞き覚えのある声がして、俺はふと足を止めた。  ……あー、またか。  マスクの下で、小さくため息を溢す。  見なくてもわかる。これは、告白現場だ。  何の因果か、俺は同じような場面にもう三回も遭遇している。    この声は……多分、三年の部員・宮内(みやうち)だろう。  生真面目な性格が、プレーにも告白にも現れてる。 「よかったら、俺と付き合ってください!」  まるで捻りのない、直球ストレート。  だからお前、いつまで経っても変化球が上手くならねぇんだよ。  なーんて。  俺は今、至極冷静に、冷静を……装ってる。  だって、  その告白の相手は――俺の、“彼女”だから。
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