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悟志は小さい頃から心霊や怪奇現象が大好きだった。
テレビで恐怖映像を見て、本で心霊写真図鑑に読みふけり、大人になってからは休日を使って心霊スポットを巡るようになった。
時間のあるときにネットで無名な心霊スポットを漁り、それをリストアップしておいて、休みの日が来たらそこへ足を運ぶ。
当たりにぶつかることは滅多に無いが、それでも今日の四箇所は特にひどかった。
誘拐された女が沈められたという死人池、恋人の不倫を知った男が焼身自殺したという廃屋。
いじめられっ子の怨念がこめられた人形がずらりと並ぶ井戸なんていう所にも行った。
あるとき、視覚障害が原因で仲間外れにされてしまった少女が、人形の目をくり抜いて相手の子にそれを渡したという。
数日後、使われなくなっていた井戸で人形を渡された子の死体が発見された。
井戸の横には「きけん、ちかづくな」と子どもでも読めるひらがなの標識があったにもかかわらず、彼女は井戸へと落ちたのだった。
一説では人形を渡された子は、呪いによって幻覚を見ていたとされる。
死体が発見された日、井戸の周りにはずらりと人形が並べられていたらしい。
しかし今日、実際に行ってみるとその場には人形など一つも見当たらず、大いに幻滅した。
そして本日一番の目玉だった友霊滝。
あるとき、男が友人と二人でその滝を上から覗いていた。
すると友人が彼の腹をいきなり包丁で刺した。実はその友人は金がらみの恨みを持って、計画的に人の少ないそこへ男を誘き寄せていたのだ。
立ち去ろうとする友人の肩に「待ってくれ」と男は手をかけるが、友人は男の手を払いのけ、バランスを崩した男は滝つぼに真っ逆さま。
この話を聞いたとき、これはアリかもしれないと興奮したのを覚えている。
しかし足を運んでみて目前にあったのは、何の変哲もないただの滝だった。霊が出るとは思えない平穏な場所。
昼間に行ったことが原因なのかもしれないが、ゾッとするような雰囲気は微塵もなく、興奮は冷めた。
計画していた場所を周りきり、行く場所がなくなった悟志は近場でスポットを探した。
そして今に至る。
***
「おい、ここ道がないぞ」
地図に書かれたトンネルは舗装された道を大きくそれた森の中に位置している。
助手席でずっと地図を広げていた光祐は顔を上げて、森を見た。
「おそらく、突っ切っていくしかないだろう」
「全然知られてなさそうな場所じゃないか。よく見つけられたよな」
「現代技術に感謝だ」
光祐は携帯電話を持ち上げてひらひらと振った。
悟志がハンドルを大きく切り、車は伸び放題の草を踏みつけながら森へと入っていく。
森の中は覆い被さる木々で、陽差しがほとんど届かなかった。
夕方になったせいで薄暗いのか、それとも昼間からこんなに暗いのか。
「おい、本当にこっちであってるのか?」
悟志は運転をしながら不安に駆られる。心霊よりも怖いのは道に迷って家に帰れなくなることだ。
「こっちのはずだ」
「またあの滝みたいにひどい場所じゃないだろうな」
悟志はうんざりした口調で言う。
「人様が死んだ場所を『ひどい場所』なんて言うんじゃないよ」
「あんなのでまかせに決まってる。誰も死んじゃあいないさ」
「……おい悟志、あそこを見ろ」
光祐の視線の先に暗闇があった。
山の一部分がコンクリートで固められており、その中心に大きなトンネルがある。
悟志はブレーキを踏み、車を停めた。
トンネルは高さ三メートルほどで、幅は二車線よりちょっと広いといった具合だ。
トンネルの前には木が生えていない広場のような空間があり、朱い日の光がトンネルを照らしていた。
先ほど画像で見たものと全く同じだ。
「ここか……」
自分の鼓動が激しくなっていることに気が付く。
トンネルに広がる暗闇は差し込む光と対照的で、吸い込まれるような暗さだった。もしその先が落とし穴になっていたとしても、気付かずに落ちてしまうだろう。
ごくりと唾を飲み込んで、汗ばむ手をハンドルにかける。
「良い感じだな。今日のラストは『真っ暗闇トンネル』だ」
そう言って、震える足をアクセルに乗せる。
震えが恐怖によるものなのか、それとも興奮から来ているものなのか、自分でも分からなかった。
ゆっくりと車が動き出し、周囲が暗闇に包まれる。暗闇が自分を呼んでいる。
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