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十一 二十一世紀少女
「いやあー、昭和ってこんなおもしろサービスがあったんだな」
一一七と一七七を堪能してご満悦の拓海に、だからもう平成だ、と博はあきらめ顔で訂正する。「あと天気予報と時報は、両方とも令和まで続いてる」
「誰得」
「帰ったらかけてみよ。ミリバールって言うかな」
言わねえよ……。
うれしげな姪にげんなりするが、彼女の口からはその斜め上というか下というか、伯父の想定外の発言が、休むことを知らず飛び出すのを知らない彼はぼやく。
「電話ひとつでこれだけ盛りあがれるなんて、まったく……二十世紀初頭かよ」
「え、ここ十九世紀でしょ? 一九九〇年なんだから」
すっとんきょうに目を丸め、博は問う。「それ……ギャグで言ってるよな?」
「なんで?」きょとんと姪は問い返す。
「一応、聞いてみるが、俺たちが来たのは何世紀だ?」
「二十一世紀でしょ。違うの?」
「違わない。で、今は?」
「十九世紀」
二十世紀どこ行った。
「え、違うの?」
「……もういい」
「えっ、なになに? あたしなんか変なこと言った?」
変なことしか言っていない。
天然だ天然だとは思っていたが、これほどまでとは。もう現代っ子がどうとか関係のない残念さだ。
わきの拓海も拓海で、わかっているのかいないのか、どっちつかずでにたついている。だめだ、やっぱりこいつら連れてくるんじゃあなかった。博は改めて、後悔の大海原を大航海する。
「あー、もう公衆、おもしろすぎ。こんなに楽しいなんて知らなかった」すっかり満喫した葵は、上機嫌で黄色の電話機をカメラに収める。「ドコモも、もっといっぱい設置すればいいのに。ね、おじさんもそう思わない?」
「ああ、そうだな」あきれて相手をする気にもなれない。
ほとんどなにもしていないのにどっと疲れた気分の彼に、朗報とも悲報ともとれる報告が不藁から入る。「モグさん、情報収集をひととおり終えた」
えっ、と振り向くと、千尋とともに公衆電話から情報端末に持ち替えた相棒が、すでにデータを整理しているところだった。これでは本当にただ子守をしていただけだ。
少々、ショックを隠せないリーダーに、サブリーダー的ポジションのいかつい男は、淡々とまとめを報ずる。
「横浜駅周辺だと、安いところでおおよそ三千円前後の横並び。桜木町や鶴見の辺りも少しあたってみたが、特別安くはないようだ」
「想定している待機日数で済むなら――」千尋が端末から顔を上げる。「そうシビアに厳選したりこの近辺を離れたりするほどの差異はないみたい」
彼女の言うとおり、期待どおりにことが運ぶといいのだが。到着してまだ数時間というのに、思惑から外れ気味の事態が続出している。その一端、最新の斜め上なプチ騒動に目をやり、博は息をつく。
公衆電話のわきに備えつけの電話帳をひらいた葵と拓海が、また「なにこれ、電話番号がめちゃくちゃいっぱい書いてあるよ」「こっちの本なんか人ん家の番号が住所つきで死ぬほど出てるし」「も、も――もぐ――艾草清、保土ケ谷区丘谷五丁目五-二五。これ、おじいちゃん家だよねっ」「こんなとこに個人情報載ってて大丈夫なのかよ」と大騒ぎだ。いったいこの先、どうなることやら。
博は一抹か二抹、いや、四、五抹ほどは不安をおぼえつつ、仮住まいのホテルへ向け、バッグ類を背負いはじめた。
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