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二 短調の少佐
『よし、ヘッドショット』
夜明け近く、薄明の海岸。
波に洗われた浜に伏す人影があった。ほんの今しがたまで小銃を構え、波音を背景に銃声を響かせ、すでに空から失せた星々に代わり海辺にマズルフラッシュをひらめかせていた者だ。野太い声がひとりごちる直前、ひときわ大きな発砲音とほぼ同時に、その体は、弾けるように頭からのけぞり、砂の上へ倒れた。
薄暗いなか、数十メートル先の影は見えづらかったが、先ほどの言葉が示す「頭部への銃撃」のとおりであれば即死。実際、横たわる影――迷彩の戦闘服をまとっているようだ――が身動きする気配はなかった。
『これでキルレシオは五・二五、と』
太く落ち着いた声が、わずかにうれしげな響きをにじませる。
『このクランはニュービーばかりか? どいつもクソエイムだ』意識して感情を殺した声は
『セカンダリーでリスキルするだけの簡単なお仕事です、ってか』ひとり淡々と
『バニーホップもろくにできないのにキルスティールだけはいっちょまえだな』断続的に、つぶやく。
その間にも黎明の浜辺には、打ち寄せる静やかな波しぶきに似つかわしいとはいえない、短機関銃の規則的な掃射音、腹に響く迫撃砲の発射音、男の悲鳴が、そこいらであがる。
およそ平時の日本、演習場でもない区域で聞かれるたぐいではない硬質の破裂音――断末魔は命の爆ぜる音か。
それらの飛び交う間隙が次第に伸び、数少なになってゆき、ときおり思い出したかのようにぽつと現れ、やがていっさいが、やんだ。
静寂を取り戻した絶海の孤島。
不規則で単調なさざ波に、絶対音感の持ちぬしならば、短調の悲しげな調べを聞き取るのだろうか。
砂浜とともに洗われる、もの言わなくなったばかりの体を照らすには、あまりに穏やかで、清廉な日の光が、東岸、水平線の向こうにまもなく差そうとしていた。
殺戮劇を制した、あの、低く腰のすわった声が、そっと、しかし高らかに宣言する。
『ミッション・コンプリート』
その動画に添えられた説明には、声のぬしについてこう記してあった。
『JGSDF Special Forces Group (日本陸上自衛隊 特別作戦集団)
Major Tsuyoshi Fuwara (不藁 剛 少佐)』
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