後ろの理解者・ep.6

1/5
前へ
/5ページ
次へ

後ろの理解者・ep.6

 志垣(しがき)詩乃(しの)は自殺して霊体化したにも関わらず、むしろ大好きな四之宮(しのみや)紫音(しね)のそばにいることができる幸せの中で過ごしていた。霊のたしなみである成仏など頭の片隅にもない、全くもってお気軽な霊魂である。  この軽薄さ、生前といささかも変わらない。 「なんだか不愉快な声が聞こえたけどまあいいわ。紫音、今日は何してるかな♪」  詩乃は現生に来さえすれば、 −霊魂は時々しか現生に到達できない− 紫音に会いに来ていた。紫音は、詩乃の存在は感じられても姿は見えないが、愛犬兼番犬のホームスウィートホーム(注:元「ふんわりラテ」である)が近くにいれば、詩乃の姿が見えるし話もできるのであった。  ホームスウィートホームは類稀な超能力犬だというのに、紫音の気まぐれで次々変えられる、おかしげな名前が不憫だ。 「なんだかホームに同情する声が聞こえたけど気のせいね。あら詩乃、来てたの」  紫音はガーデニングの最中。かけがえのない親友同士の2人にとって、霊魂や死者など大した問題ではない。詩乃はごく普通に紫音に話しかける。 「おはよ紫音。また犬の名前変えたの?ホームスウィートって…どうせあれでしょ、お父様のCDでも聴いたんでしょ。モトリーだっけ?古いなあ」 「私の知ってる音楽が古いのはパパが悪いのよ。それにホームって名前にしたおかげで、ハウス!って言う時に紛らわしくてしょうがないわ」 「あははー、ばか紫音!」 「何よこの円山応挙!それより詩乃、今日は顔色いいじゃない。幽霊なのに健康的とか意味わかんないね。うふふ」 「いつもとおんなじ霊魂スタンダードカラーだっての。って、誰か来るね。私隠れるわ」 「わざわざ隠れなくても、私とホーム以外には見えないわよ。てか誰が…うわあ、ついに来ちゃったよあの娘…やっぱり隠れて詩乃」  紫音の友達は詩乃しかいないはずだが、わざわざ家まで来るのは誰なのか?詩乃は紫音の慌てた態度も気がかりで、姿を消して成り行きを見守ることにした。 「おっはよーございまーす紫音先輩!3ヶ月に渡るダウジングの成果で、ついに先輩のお家を見つけましたよー!やったね私!」  見慣れぬ小柄な少女。ショートカットに丸い髪飾りも手伝っていっそう幼く見える。よく通るアニメ声、飛び跳ねながら全身ではしゃぐ様子に、詩乃はゲンナリした表情で呟く。 (何なのこいつ、小さいな…子どもなの?ダウジング?このハイテンションは一体?先輩って何よ、紫音を慕うような変態下級生なんていたかしら?)  紫音の対応も、心なしか嫌々に見える。 「はあ、来ちゃったんだ、(えにし)あなた…」 「はいっ!この恐神(おそかみ)縁、紫音先輩のためならどこへでも駆けつけますっ!」 「呼んでないわ。どこへでもって、ここは私の家だし」 「もー、紫音先輩はすーぐツンデレるんだからー。そんなとこも素敵ですけどね!えへへー!」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加