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紫音は、期せずして「縁を遠ざけたい」という本心を表せて満足げだ。姿が見えない詩乃も(ざまーみろ!)と上機嫌である。だが縁は、2人の意に反してますます喜んでいた。
「もう紫音先輩。嬉しいなあー。これって、縁と一緒にどこか遠くを旅したいってことですよね。やーん、感激しちゃうー!」
ここに至って詩乃は、縁の真のヤバさに気づき始めていた。
(…紫音。こいつの本当のヤバさって霊能力じゃなくて…)
(そうよ詩乃。「異常な打たれ強さ」と、「人たらしな容姿と性格」が、縁の危険要素なの)
花言葉を真に受けて旅行さえ計画し始めている縁。だが少し真面目な表情で言った。
「紫音先輩。さっきの邪悪な雰囲気ですけど、ひょっとして最近死んだ人に関係あるんじゃないですか?」
さらにギクーーー ッ!とした表情で、紫音と詩乃は縁を見る。
「な何言ってんのよ縁。私に死相が出てるとでも言うの?」
「いえそれはないんです。ただ最近、紫音先輩の周囲で馬、詐欺師の音大生と志垣先輩が亡くなってますよね。詐欺師の怨霊が憑けば、死相が出てもおかしくないけど…」
「そ、そうね。体調は悪くないわ」
「それどころか、2人が死ぬ以前にも増して良いオーラが見えるんです。となると、憑いてるのは志垣先輩ですかー?」
ギクギクギクーッ!と、紫音と詩乃は固まる。なぜ縁が田坂を知っているのかも謎だが、それが彼女の不思議で不気味なところである。詩乃はともかく田坂はアンタッチャブルなので、紫音は当然のようにスルーした。
「何を言うのかしらこの娘は。万一それが本当だとして、悪影響がないならいいでしょ。詩乃は一番大切なお友達で私の理解者なんだから、悪いことをするはずが…」
詩乃は紫音の言葉に安心し、半泣きで様子を見守る。全く、どんな霊魂だ。
「そうですか…でも確かに、嫌な感じはあるんですよね」
(それはあんたに対する私のムカつきよっ!)と、詩乃は呟く。それを感じた紫音は思わず吹き出した。
「どうしたんですか?まー、何もないならいいんです。霊といっても悪者ばかりじゃないですからね。でも、もし私の紫音先輩を困らせたら…」
縁は詩乃(のいる方向)を、キッと見つめた。
(この娘やっぱり私が見えてるんじゃ…ホームスウィートホームもずっと縁を警戒してるのよね)
詩乃は、縁に対して恐れに近い感情を抱く。霊魂だが。ここで少しこんがらがった雰囲気を突破するように、紫音が言葉を発した。
「あーもうっ!とにかくね、私が霊ごときに迷惑するわけないでしょ。縁!もうあなた、面倒くさいから帰って頂戴。でもまあ…来てくれたのはほんの少しだけ嬉しいわ」
「やーん、嬉しいだなんて縁も嬉しいですー!また来ますね。では!愛する紫音先輩ー!」
嵐が去った直後のように、紫音と詩乃はいいだけ心を削られていた。
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