あの大きな空を

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 廊下にも猫はいて、一番奥の部屋に着くまで三匹見つけた。自由に出入りしているらしく、美也子たちが近づくと軽快に手すりを飛び越えて道へと逃げていった。  愛智がドアをノックする。鍵は開いていて、ちょうどヘルパーの有田紗良を見た。 「瀬戸さんじゃん。珍しいね」 「僕もたまには仕事するんですよ」  互いの手を叩き合うように軽い挨拶を交わして紗良は去っていった。入れ違いに部屋に入った美也子は、その瞬間懐かしい気分にとらわれる。浴室と一体になったトイレの狭さは特養の居室とよく似ており、ベッドと冷蔵庫で半分の床面積を埋められる狭さも見覚えがあった。  しかしテレビと戸棚しかなかった特養の居室よりも、家具は充実している。見た目が似ているだけでは片付けられない、別の共通点があるように思えた。 「どうも、兼松さん」  身をかがめて愛智は、ベッド上の男性に挨拶した。あまり背は高くないようだが恰幅が良く、要介護五だとすると車椅子へ移ってもらうのに苦労するだろう。 愛智は相変わらず快活な印象の声で、顔は見えなくても笑顔が思い浮かぶ。冷めた意見を吐いたのと同じ声とは思えない。 「ああ、どうも……」
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