あの大きな空を

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 二日後に美也子は愛智と共に兼松傑の元へ向かった。運転は当然美也子である。相変わらず彼は、他人、それも女子に車の運転をさせて悪びれず、それどころか助手席でのんびりするのは楽しいなどとのたまっている。信号待ちの時にプリッツの袋を開けて一本差し出してきたが、運転中でなければ半分ぐらい奪い取ってやりたかった。  傑が住んでいるワンルームマンションは、事業所から車で十分の距離にあった。高速道路の出口や消防署など目印になるようなものが集まった場所で、人の通りも多い。大きな病院もあるせいか、途中で二回もサイレンを鳴らす救急車に追い抜かれ、車を停めた後も赤信号を無視して救急車が病院へ急行するのを見た。 「いつ来ても賑やかだねえ……」  一足先に車を降り、何を思ってかしみじみ呟く愛智を無視して、美也子は事前に調べておいたマンションのエントランスを目指した。  エントランスの左手にはコインランドリーがあって、そこを通って猫が入り込む。人間がいるのに気づくとその場で固まって警戒心一杯の眼差しで見つめてくる。わずかに身じろぎすると逃げていった。
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