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「あの、湊本さん、ごめんなさい。 二人の話し合いに同席させて欲しいって彼に頼んだの」
彼は呑気にコーヒーとホットミルクを頼んでいる。
「……平織さんはいいって言ったんですね」
「ええ」
「そう……」
だったらもう話し合いをする必要はない。
これが、彼の答え。これ以上自分が傷つくとわかっていて、この席に居続ける必要なんてない。
……うんん、そんなことしたら自分が壊れてしまう。
醜悪な姿を見せたくない。
なりふり構わず泣いて叫んで、みっともない女になりたくない。
何よりも、二人をこれからもずっと恨み続ける人生なんて勿体ない。せめてこれくらい、私の思うがままのものであって欲しい。
「紫世、悪いとは思ってる。 けど、俺は真里菜を放っておけない」
「……聞いていい? 彼女の相談って何だったの?」
「いや……それは……、そもそも言う必要はないと思うけど」
「この今の状態の説明も理由も、何にも私は教えてもらえないの?
そもそも結婚式はどうするの?
式場をキャンセルできたとしても、部長には挨拶をお願いしているし、招待客も会社の人たちが多いのに……」
「忠度さん、それじゃ納得できないわよ。
私は気にしないから、湊本さんに説明してあげて。お願いもしなきゃダメ出し……」
「……いや、それは……」
なんて歯切れの悪い。自分の蒔いた種じゃない。最後まで自分で責任を持てばいいのに、藤本さんに言われても、もごもごと埒がああかない。
「彼女に……子供でもできた?」
言いたくなかった。
聞きたくもない。
でも、「ホットミルク」を飲んでいる彼女を見て、そうだと思った……
籍を入れる前でよかったじゃない。
もう一人の自分が頭の中で囁いている。馬鹿みたいに笑いながら。
「……実は、そうなんだ」
「いつから、騙していたの……ねえ、平織さんは私のこといつから騙していたの?
会社で名前を呼んだら面倒なことになるからって、私に名前を呼ばさなかったのは……そんなに私に名前を呼ばれるのが嫌だったの」
「いや、別に騙していたつもりはないし、本当に結婚しようと思っていたけど……つい、新年会で酔っ払った時に……」
「それで?」
「それで?」
「……結婚式はどうするの」
「え?」
「……そういう話じゃないの?」
「まさか、まだ俺たち結婚する気?」
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