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滲んだ涙は、あの時みたいに悲しい涙でも、悔しい涙でもない。
「おい、大丈夫か」
能面のような顔だけど、焦っているのが言葉からわかる。
私はにっこり笑って、
「大丈夫です」
と、答えた。
季節はちょうど源平小菊が咲き乱れる頃。
私はきっとまた恋をする。
一番近くに居て、それでいて遠くから見守ってくれた能面のように表情が見えない、だけど優しい人、立花部長にきっと……
「おい、何を笑ってるんだ」
「いえ、なんでもないです。 部長、今度ランチでもご馳走して下さい」
「……そうだな、今日の詫びに。湊本の行きたいところでいい」
「はい。 楽しみにしています」
源平小菊の花言葉、「遠くから見守ります」。
辛いこともあったけれど、それもすべて今に続いているんだったら、あの辛かった時間も無駄じゃない。
ようやくそう思えるようになった私は、また一歩踏み出そうと決心した。
終
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