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「お礼にランチをご馳走するよ」
「いえ、いいです。メモを拾ったくらいでランチなんて申し訳ないです」
にこやかに顔を覗き込まれるようにして告げられたお誘いに、反射的にお断りの言葉を返してしまった。
本当にこの程度のことで申し訳ないと思ったのはもちろん、同僚女性たちの冷たいまなざしを想像してしまってぞくっとしたのも確かだ。
「そう?」
彼はしつこくなかった。スマートににっこり笑って
「じゃあ、本当にありがとう」
と立ち去って行くのを、ちょっぴり残念な気持ちと、どこかほっとした気持ちで見送った。
私たちの関係はそれで終わるはずだった……
終わるはずだったんだけど……
「あの……どうして私はここへ連れてこられたんでしょうか」
そう。次の日、平織さんは昼休憩に突然現れて、ちょっと付き合ってと私を連れ出した。
羨ましいって声が聞こえたけれど、半ばパニックの私は、心の中で全然羨ましくないって叫んでいた。
「昨日のお礼。この店、ずっと気になっていたんだけど、男一人だったら入りにくくてさ。かわいそうだと思って、湊本さん付き合ってよ」
イケメンは誘い方もイケメンなんだ。こちらの負担にならないようにさらりとしている。
ぽっけっと感心していたら、平織さんはくすっと笑ってメニューを渡してくれながら
「煮込みハンバーグとシーザーサラダのランチがお勧めらしいよ」
と教えてくれた。
彼が教えてくれた店のお勧めは確かに美味しかった。女子好みなインスタ映えを狙った盛り付けは、食用の色とりどりな花をふんだんに使っていて、美しいの一言に尽きる。
口にする前は、花を食べるの?と思ったけれど、何気なく口に入れた花々は見目ほど華やかな味でもなく料理ととっても合っていた。
「素敵なお店ですね。お料理も華やかでとっても美味しいです」
「営業だからあちこちの店はリサーチしているんだけど、この店は男一人では入れない店ダントツ一位でさ。営業で使えるかどうかはともかくとして、俺の好奇心は大満足です」
本当に人に気を使わせない気配り上手な人だと感心した。なんとなく営業成績一位の彼には、冷たくて近寄りがたいイメージを抱いていた。
申し訳ない先入観に、小さな声になってしまったけれど、かろうじて
「ありがとうございます、ご馳走様でした」
と伝えることができた。
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