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Farewell―別れ―
彼から何の音沙汰もなかった。
私に見られたと思っていないからか、それとも男性版マリッジブルーなのか、そんなものがあるなんて聞いたことないけれど。
結婚前にすでに浮気だったら、当然別れてやる。結婚前に別の女性の方が良かったって言うなら、結婚式をどうするつもりなのか、何も言ってこないなんて無責任すぎる。
何よりも確認すらできない優柔不断な私自身が一番腹が立つ。
破局なら破局で、一番いいワインを大量に飲んで、泣いて泣いて、まるで溶けるんじゃないかっていうくらい泣いて、絶対に一日で立ち直ってやる。
そして、何事もなかったように会社に行って、何事もなかったように仕事をする。なんて素敵な嫌がらせだろう。
だけど、そんなことできるはずもなく、少しずつ近づいてくる結婚式が、まるで処刑台への階段を上っていくようだなんて……
彼と初めてランチに来た店の前には、あの時と同じ源平小菊が揺れている。
ゆらゆらと風に揺れるさまは、私の心の動揺のようで直視できなかった。
白い花の中に、色が変わり始めた淡い赤い花がいくつか。だから花言葉が「移り気」なんだと思うと、ほろりと涙が零れた。
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