Farewell―別れ―

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 進めていた結婚式の準備を、一旦停止させなければ、と手続きをした。 「結婚を延期します、もしくは婚約を破棄します」 と説明する惨めさ。誰もが理由を聞きたがったけれど、あまりにも私が憔悴していて気の毒に思ったのか、それとも社内恋愛の弊害で、おおよその理由に心当りがあるのか、深く追及してくる人はいなった。  それはとっても有り難かったけど、いかにも腫物扱いで、私の心はざわついた。  そして、何よりもざわついたのは、ことが明るみに出てから遠慮がいらなくなったのか、経理課の藤本真里菜(ふじもとまりな)さんと彼が、堂々と二人でいるようになったことだ。  才女が聞いて呆れる。  容姿も仕事の能力も天と地ほど差があるかもしれないけれど、人を傷つけていることには無頓着で無邪気な人。  それでも、やっぱり一番腹立たしいのは、説明の一つせず、事態を先延ばしにしている彼だろうか。  いくらなんでも話し合いの時間を作らなければ……と焦り始めた頃、平織さんから連絡が来た。  社内メールで。  もう、怒りを通り越して呆れるしかない。  私の中で、中断していた結婚式の話を再開させる気は……もう、ない。  どこから可笑しくなったんだろう。  私は何を間違ったんだろう。  話し合いの場所に会社の会議室を指定してくるようなどこまでも無神経な男。  わかっているのに、どうして嫌いになりきれないんだろう。  自分の不安定な気持ちを持て余す。  何かを期待しているわけではないけれど、さすがに会社の会議室? と思った私は、会社からほど近い喫茶店を指定した。  定時で仕事を終えた私は、着替えも早々に喫茶店についた。  どうせ彼は定時に終われないだろうから、カフェラテでも飲んで気持ちを落ち着けようと思った。  ここのカフェラテはとっても美味しい。  ……一口飲み、カップを置いた。  あんなに美味しいと思っていたカフェラテも、味気なくて、人目を避けて座った席は外が丸見えだったから、目に入った光景に味も感じなくなった。  今日は、私たちの今後についての話し合いをしましょうってことだったけど、本当にどこでどう拗らせたらこんなことになるのだろう。  彼は、藤本さんとともに現れた……
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