25人が本棚に入れています
本棚に追加
梛音に腕を掴まれた少年(高邑 憐)の第一印象はやけにアンバランスなものだった。
顔だちにはまだ幼さが残っており、まるで少女のように愛らしいのだが、その表情たるや酷く大人びており、冴え渡る氷のような月を思わせた。
年は中学生ぐらいだろうか、艶やかで真っ直ぐな漆黒の髪とくりっとした瞳、同世代の子に比べると背は小柄で、線はかなり細かった。
少年(憐)は自分の腕を握っている男(梛音)を、訝しげに睨みつけた。
「……何なんですか?」
まるで不審者でも見るかのような、憐少年の冷たい視線に怯み、梛音は慌ててその手を放し、突然の非礼を詫びた。
「すまない、知り合いと間違えたみたいだ」
目前の失礼な男を、不信感丸出しで上から下まで凝視すると、少年は「二度はないぞ」とばかりに再度にらみつけた。
そして無言でさっさとその場をあとにしてしまった。
視界から去ってゆく背中を、瞳に焼き付けるように、名残を惜しむように、梛音はいつまでも追っていた。
微笑んでいるのに、なぜかその瞳には哀しみの色が見て取れた。
「……僕の事はやっぱり忘れてしまったんだね。でもそれでもいい、いやだからこそかな、僕は君の側にいられる、よね?」
側から見ても胸が苦しくなるような、そんな切ない表情だった。親愛か、愛情か……。いずれにしても、彼が少年の事をとても大事に想っているのが伝わってくるようだ。
最初のコメントを投稿しよう!