Prologue 君だけが

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梛音に腕を掴まれた少年(高邑(たかむら) (れん))の第一印象はやけにアンバランスなものだった。 顔だちにはまだ幼さが残っており、まるで少女のように愛らしいのだが、その表情たるや酷く大人びており、冴え渡る氷のような月を思わせた。 年は中学生ぐらいだろうか、(つや)やかで真っ直ぐな漆黒の髪とくりっとした瞳、同世代の子に比べると背は小柄で、線はかなり細かった。 少年(憐)は自分の腕を握っている男(梛音)を、訝しげに睨みつけた。 「……何なんですか?」 まるで不審者でも見るかのような、憐少年の冷たい視線に怯み、梛音は慌ててその手を放し、突然の非礼を詫びた。 「すまない、知り合いと間違えたみたいだ」 目前の失礼な男を、不信感丸出しで上から下まで凝視すると、少年は「二度はないぞ」とばかりに再度にらみつけた。 そして無言でさっさとその場をあとにしてしまった。 視界から去ってゆく背中を、瞳に焼き付けるように、名残を惜しむように、梛音はいつまでも追っていた。 微笑んでいるのに、なぜかその瞳には哀しみの色が見て取れた。 「……僕の事はやっぱり忘れてしまったんだね。でもそれでもいい、いやだからこそかな、僕は君の側にいられる、よね?」  (はた)から見ても胸が苦しくなるような、そんな切ない表情だった。親愛か、愛情か……。いずれにしても、彼が少年の事をとても大事に想っているのが伝わってくるようだ。
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