第1話 欲望のままに

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第1話 欲望のままに

その質問は突然に投げかけられた。 「ねぇ、きみってゲイなの?」 柔らかく色素の薄い髪、長い睫毛と妙に人を惹きつけて止まない瞳。自分とは正反対の、恵まれた容姿とその使い方を良く知っている部類の人間だろう。 直接話した事は無い筈だが、大学内で見かけでもしたのだろうか、どこか見覚えのある顔だった。 しかし飽きもせず、またこの質問かと辟易(へきえき)させられる。 俺(高邑(たかむら) (れん))に関心を持つ人間は、いつも二通りだ。 ひとつは、面白がってからかうもの。 そしてもうひとつは、腫れ物に触るように遠巻きに眺めるもの、だ。 俺はゲイなワケじゃない。 ただ、女という生きものを心底憎んでるだけだ。 だけど、それを正直に答えてやるほどの親切心は、生憎持ち合わせちゃいない。 そうやって無遠慮に人の事情に踏み込んでくる(やから)は、大抵、興味本位にその理由を尋ねてくるので、たちが悪い。 だから、俺はいつものように、満面の笑みを浮かべて答えてやる事にした。 「そうだよ。きみが今晩、ぼくの相手をしてくれるの?」
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