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Prologue 君だけが
ーーーー愛宕大学病院の待合い室は、今日も多くの人でごった返している。
その中にいても、木暮 梛音は周囲からひときわの異彩を放っていた。
180は優に超えるだろう身長に加え、バランスのとれた九頭身、その頂点にある、日本人離れした恐ろしく整った顔と、光に透けて琥珀にみえる髪は、周囲の女子の溜め息をさそうほどに艶やかだった。
病院の支払いを待つ間、梛音はようやく空いた席に腰を下ろす。
が、空きを探す老婦人に気づくや、さっと彼女に席を譲ってしまった。
そして恐縮する女性に、
「もう、番が来たので」と優しい嘘をつくあたり、なかなかである。
見た目良し、中味がもっと良しとなれば、世の男性の嫉妬を一身に受けること間違いなしであろう。
さて、女性に嘘をついた手前、梛音はその場を立ち去ろうとしたが、途中、逆らいがたい誘惑を覚えて足を止めてしまった。梛音にとって、いたく懐かしい香りだった。
彼には変わった能力がある。
五感で知り得た情報を瞬時に記憶し、コンピューターのようにその情報を必要に際して自由に取り出せる、といった大変便利な能力だ。
その彼の敏感なセンサーが、どうやら反応したらしい。
梛音は思わず、その香りの主の腕をつかんでしまっていた。
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