未来への懸け橋

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 中学二年のある日、彼に出会った。初めて私の力を信じてくれた彼に。  駅で電車を待っていたら、急に話しかけられた。 「ねえ、あんた。さっき電車に乗り遅れて舌打ちするって言ったよな?」 「え?」  私はとっさに何の事だかわからなくて聞き返した。そういえばさっき変な男にナンパされ、その断り文句に適当な人を予言した。そしたら案の定ひいて、どこかに去っていった。そんなどうでもいいいきずりの言葉に、この人は気付いたというのだろうか。 「絶対言った。あんただろ? なんか革ジャンのしょべえ男と話してた。こっち指して言ったもんな。あん時、電車遅れそうなのに気付いてあわてて走ったんだけど」  彼は息を切らしながら一気にしゃべった。ピアスを両耳に三つもあけていて、茶髪で長髪だし、さっきの男の方がいくらかましなぐらいのチャラチャラした格好。私が本能的に避けるタイプ。なのに目の前の男は何故か憎めないキャラをしていた。 「本当にそんな事だけで私に近づいてきたの? ただの偶然だって思わないわけ?」  私は少し意地悪な聞き方をした。新手のナンパじゃないとは限らない。 「何? もしかしてお姉さん、俺がナンパじゃないか疑ってる? 俺そんな低俗的な事しないよ。女の子には間に合ってるし。じゃなくて、こんなの偶然にしてはおかしいって普通気付くよ。俺無意識で舌打ちしたんだから」  彼はやっと呼吸を整え、私の目をまっすぐ見て言った。黒くて大きな目。かなり童顔だ。ううん。背だって低いから中学生くらいかも。私はそこで初めて相手がまだ幼い男子だと気付いた。 「あなた中学生? 学校は?」  自分だってあまり行ってないのに、聞く自分がおかしかった。 「高一だよ。これでも。よく中学生に間違えられるけど。学校行こうと思ったら電車に乗り遅れたの。でも、こんないい天気の日は遊ぶに限るよね」  誘っているように聞こえる。そんなわけないのに。私はナンパされるような女の子じゃない。さっきの男だって何か勘違いしていただけ。 「それ、誘ってるの?」  だから私はわざと言ってやった。 「冗談きついよ。いや、お姉さんはもちろんキレイだと思うけど」 「ありがとう。でも、私あなたより年下だから。中2」  彼は一瞬止まって、まじまじと私を見て、驚いたように言った。 「マジっすか?」 「マジっす」  相手の調子に合わせた。ちょっと面白い。
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